最新記事
BOOKS

路上売春に行く私を、彼氏は笑顔で送り出してくれ、帰ればセックスしてくれるから「私はそれで幸せ」。なぜ彼女は...

2023年8月14日(月)19時10分
印南敦史(作家、書評家)
歌舞伎町の女性

写真は本文と関係ありません maruco-shutterstock.

<長期取材を重ねた高木瑞穂氏によれば、大久保病院側に立つ女性は「ホス狂い」ばかり。新宿歌舞伎町に増殖する「街娼」の深すぎる病巣>

『売春島』を筆頭とするノンフィクション作品を送り出してきた高木瑞穂氏は、私が個人的に全幅の信頼を置いている人物だ。緻密に取材を重ねる姿勢に、強く共感できるからである。

 
 
 
 
 

Twitter(どうでもいいが、Xとは書きたくない気分)も随時チェックしているので、1年以上前から毎日のように歌舞伎町に足を運んでおられることは知っていた。だが、それが新刊『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』(高木瑞穂・著、鉄人社)の取材のためだったとは想像もしていなかった。

本書において氏が"現在地"と呼んでいるのは、東京・新宿歌舞伎町の高層ビル「東京都健康プラザ ハイジア」と、そこに隣接する「新宿区立大久保公園」周辺。マスコミで取り上げられる機会も多いのでご存じの方もいるだろうが、「街娼」たちの根城であるエリアである。氏はここで時間をかけ、彼女たちに取材を重ねてきた。

根底にあるのは「なぜ彼女たちは路上を選ぶのか」という疑問であり、それを解き明かそうと試みたわけだ。


しかし街娼たちを直撃して立ち話をする程度では、表層部分は汲み取れても、その真相には辿り着かない。やはり長期にわたる密着取材が必要だろう。そして見通しをよくするためには、全国に点在する街娼スポットを網羅するのではなく、ハイジア周辺だけに絞る必要もあるだろう。むろん取材対象者数は、多ければ多いにこしたことはない。(「プロローグ」より)

話を聞いている相手は、16歳の少女から年齢不詳の老女まで多種多様。しかし当然のことながら、どうしても気になるのは上述した「なぜ彼女たちは路上を選ぶのか」という問題だ。友だちからの紹介などもあるようだが、たとえば印象的なのは17歳の純連(仮名)のケースである。

高1で出会い系サイトでの援助交際を覚え、地元である神奈川県下の援助交際デリバリーヘルス(援デリ)グループに所属したのち、"現在地"に流れついたのだという。リスクの多い路上を選んだのは、「より手軽さを重視した結果」だとか。


「だって面倒くさいじゃないですか。何度もメールをやりとりするのがダルいし、それに待ち合わせの場所で、相手が私のことが好みじゃないと、遠くから顔だけ見てすっぽかされるし。実際はほとんどお金にならないんですよ。
 働いていた援デリが摘発されて、援デリ時代の人脈でキャバなら潜り込めるアテがあったけど、時間通りに出勤するとかの規則が厳しくて働く気になれなかった。もちろんフーゾクは年齢的に無理。だったら街で立つほうが手軽に、しかも確実に稼げるかな、と」(146ページより)

そこで立ちんぼのひとりに接触した結果、「キャップの強面の男」(監視役)を紹介され、自ら志願して"組織"に入ったのだそうだ。


「やり方は簡単。路上で客取ってもいいし、キャップの男の人から『出会い系で客を捕まえた』と、電話で呼び出されてセックスすることもある。何より、根がだらしない私の性格に合ってる仕事だった」(147ページより)

このように地方の少女が歌舞伎町に遠征し、"現在地"が路上売春の巣窟であることを知るのは珍しくないという。

カルチャー
手塚治虫「火の鳥」展 鑑賞チケット5組10名様プレゼント
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ関税巡る市場の懸念後退 猶予期間設定で発動

ビジネス

米経済に「スタグフレーション」リスク=セントルイス

ビジネス

金、今年10度目の最高値更新 貿易戦争への懸念で安

ビジネス

アトランタ連銀総裁、年内0.5%利下げ予想 広範な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    トランプ政権の外圧で「欧州経済は回復」、日本経済…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中