ニジェール政変の大きすぎる代償...西側の懸念は新たな軍事政権による「ロシアとワグネルへの支援要請」
Setback for the West
ニジェールでクーデターを起こした軍事評議会のメンバーがニアメのスタジアムでの集会に出席 REUTERS/Mahamadou Hamidou
<対テロ戦争に協力的な民主化の優等生国家が、謎のクーデターで突然、将軍たちの支配下に。サハラ南部がいっそうロシア寄りになるリスクが>
西アフリカの内陸国ニジェールではモハメド・バズム大統領が7月26日、自身の警護隊に拘束されて失脚。28日にアブドゥラハマヌ・チアニ将軍が全権掌握を宣言した。国際社会はこの動きを強く非難し、民主主義的体制に戻すよう呼びかけている。
この国はどうなるのか。今後予想される進展について、米フロリダ大学の政治学者で西アフリカ専門家のレオナルド・ビジャロンに話を聞いた。
──クーデターの背景は?
軍の内部にも、軍上層部と文民政権の間にも確執めいたものはあったが、クーデターが起きたのは全くの予想外だった。私は6月にニジェールにいたが、政変が起きそうな兆候はなかった。近年クーデターが相次いだ隣国のマリ、ブルキナファソとは異なり、大規模なデモも政権交代を求める民意の高まりもなかった。
7月26日にバズムが警護隊に拘束された際は、何が起きたかにわかに理解できず、政権が崩壊するかどうかも分からなかった。軍事クーデターは軍の残りの兵士たちが実行グループを支持しないと未遂に終わる。その場合は内戦が勃発する危険性があるが、ニジェールはそうならず、少なくとも今のところは無血クーデターとなっている。誰が実権を握るかで内輪もめはあったにせよ、将軍たちはこぞってこの企てを支持したようだ。
──影響は?
無血クーデターとはいえ、ニジェールとこの地域に壊滅的な影響を及ぼすだろう。
ニジェールは世界でも最も開発の遅れた国の1つで、貧困率は高く、政情不安と度重なる政変にたたられてきた。
だが近年は、この地域では比較的安定した国家となり、2012年に隣国マリでクーデターが起きて以来、この地域で激化したテロと紛争に対処する上で、西側の重要なパートナーともなっていた。
そもそもマリで政変が起きたのは、前年にNATOがリビアに介入し、同国の独裁者ムアマル・カダフィを倒したことがきっかけだ。カダフィ失脚により、この地域は一気に不安定化した。
そうした状況下でも、ニジェールでは2年前に初めて民主的な手続きによる政権移行が実現した。完璧に公正な選挙とは言い難いが、これは大きな成果と見なされたし、実際そうだった。だからこそ、今回の政変は大きな痛手だ。ここ数年少しずつ民主的な体制づくりが進んできたが、元のもくあみになった。
その影響は地域全体に及ぶ。隣国マリとブルキナファソは旧宗主国のフランス、さらには西側に背を向け、ロシアに接近してきた。もう1つの隣国チャドは、(大統領の死後に発足した暫定軍事政権の下で)民政移管を行うことになっているが、思うように進んでいない。
こうした周辺国とは異なり、ニジェールはイスラム過激派の暴力が吹き荒れるサハラ砂漠南部のサヘル地域にあって、文民統治の現実主義的な国であり、(西側の重要な)パートナーと見なされてきた。だが新たな軍事政権下でもそうなる保証はない。
──過去の政変との違いは?
その点は非常に興味深い。ニジェールでは過去にもクーデターが繰り返されてきたが、これまでは軍部の政治介入もやむなしと言えるような事情や、何らかの理屈で介入を正当化できるような事情があったが、今回は違うようだ。
1974年に起きた最初のクーデターの背景には、サヘル地域を襲った深刻な干ばつと飢餓がある。そのため独立後に誕生した政権に対する国民の不満が高まり、それを口実に軍部が政権を奪取した。
その後の96年、99年、10年のクーデターはいずれも、その時々の政治的危機により引き起こされた。96年の政変は、93年に発足した民主的な政権が司法当局と対立し機能不全に陥ったことに端を発する。
しかし新たに発足した軍政は公約を果たせず、3年後には大統領が暗殺され、軍部の別の一派が実権を握った。
その後1年以内には新憲法が成立し、民政移管が実現した。だが残念ながら新大統領のタンジャ・ママドゥは2期10年の任期を務め上げた後も憲法を変えて政権の座にとどまろうとした。そのため10年に再び、兵士たちが大統領宮殿を襲い、流血の銃撃戦の末、大統領を拘束した。
今回のクーデターは例外だ。バズム政権が発足してまだ2年。21年の大統領選でバズムは治安改善、教育への投資、腐敗一掃を公約に掲げ、就任後に一定の成果を上げてきた。国民の不満が高まっていたわけでもないのに、軍部が力ずくで政権を奪取したのだ。
──今後はどうなる?
非常に読みにくい。首謀者たちは憲法を停止し、国境を封鎖した。だが長期的に何がしたいかははっきりしない。
マリとブルキナファソでは、旧宗主国フランスが諸悪の根源とされ、政変の首謀者たちはロシアの支援に頼り、民間軍事会社ワグネルの軍事的な支援を受け入れている。
西側とニジェール国内の多くの人々が懸念しているのは、新たな軍事政権が自分たちの企てを正当化するために、「ニジェールにおける民主主義の実験は失敗だった」と宣言し、隣国同様、ロシアとワグネルに支援を求めることだ。
ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジンは既に西側の植民地支配からの解放だとしてクーデターを支持し、(秩序回復のため)ワグネルの戦闘員の派遣を申し出ている。
──この地域におけるアメリカの利益に対する打撃は?
ここ数年、アメリカにとってニジェールはサヘル地域における最も信頼できるパートナーだった。この地域のテロ対策の重要拠点と位置付けられ、マリとブルキナファソがロシア寄りになったことで、その重要性は一層増していた。
チャドも重要なパートナーだが、イドリス・デビ前大統領が21年に死去するまで30年間強権支配を敷いていたため問題が多い。息子のマハマト・デビが後を継ぎ、民政移管を行うと言っているが、自らが政権を握る腹のようだ。
チャドとは警戒しつつ付き合う関係だが、ニジェールは民主化の優等生であり、オープンで現実的かつ友好的なアメリカの盟友とみられていた。
今後の展開は不透明だが、この地域におけるアメリカの利益に深刻な打撃が及ぶ危険性はある。だが何より気がかりなのはニジェールの試みが大きく後退することだ。この国は安定した民主的な体制を築き、世界で最も貧しい地域の1つであるサヘル地域に平和と安定をもたらして、人々の生活を改善する試みに挑み始めたばかりだった。
Leonardo A. Villalón, Professor of Political Science and African Studies, University of Florida
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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