最新記事

衛星画像で浮かび上がったウクライナ前線を縁取る巨大な悲劇

Ukraine Satellite Map of Unharvested Crops Reveals Current Front Line

2023年8月1日(火)21時22分
エリー・クック

カホフカ・ダム破壊の地球規模の影響は宇宙からでもはっきり見える(7月5日、ロシア支配下のヘルソンで) REUTERS/Jonathan Ernst

<ロシア占領地とウクライナとの境界に、宇宙からも見える緑の傷と灰色の傷が。これはいったい?>

ウクライナがロシア軍に夏の反攻を仕掛けるなか、最新の衛星地図で、ウクライナ南部の前線をなぞるように存在する「作物が収穫されていない畑」の帯が確認された。悲劇の帯だ。

<衛星画像>灰色の傷は干上がった貯水地、緑の傷は収穫できない農作物

この画像の右に写る一筋の緑は、ウクライナ南西部に広がる未収穫の農地だ。6月にロシアの攻撃でカホフカ・ダムが決壊したときに土と一緒に流出した地雷が無数に埋まっており、危険過ぎて収穫ができない。画像の左手に灰色の傷のように見えるのは、ダム決壊で干上がったカホフカ貯水池だ。

「宇宙から見ても、ウクライナの前線がこんなにくっきりと見えるなんて驚きだ」と、画像を投稿したベルリンのオープンソース・ジャーナリスト、マイケル・クルックシャンクはコメントしている。

ヨーロッパの穀倉地帯として知られるウクライナでの戦争は、世界的な食糧不足の懸念を引き起こしている。ロシアが7月に穀物合意から離脱し、ウクライナの穀物を黒海経由で輸出できなくなったことで、状況はさらに悪化した。

それ以前から、6月6日のカホフカ・ダム破壊のせいで、ヨーロッパ最大級の貯水量を誇ったカホフカ貯水池の水量は減っている。ウクライナ南部の農業地帯の多くで、水の供給量が激減していることも衛星画像で確認されている。周辺では、農業従事者たちが地雷だらけの農地との格闘を強いられている。

「ウクライナは現在、第2次世界大戦以降で最も深刻な地雷汚染に直面している」と、カホフカ・ダムの破壊で水没した地域の地雷撤去に取り組む英国の慈善団体ヘイロー・トラストの言葉だ。

国連食糧農業機関(FAO)のピエール・ヴォーティエによれば、「前線周辺の家族経営や小規模農家の多くは、自分の農地が危険だとわかっているので作付けを控えている。そうでなければ、命を危険にさらしながら作付けをしている」

ウクライナ当局によれば、北東部のハルキウ州と南部のヘルソン州の農地100万ヘクタール超の土地にも地雷がまかれているという。

(翻訳:ガリレオ)

社会的価値創造
「子どもの体験格差」解消を目指して──SMBCグループが推進する、従来の金融ビジネスに留まらない取り組み「シャカカチ」とは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英小売売上高、10月は前月比-0.7% 予算案発表

ワールド

中国、日本人の短期ビザ免除を再開 林官房長官「交流

ビジネス

独GDP改定値、第3四半期は前期比+0.1% 速報

ビジネス

独総合PMI、11月は2月以来の低水準 サービスが
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中