最新記事

カフカス

ロシアの「裏庭」での支配力が低下...ナゴルノカラバフでの衝突が示す新たな局面

CAUCASUS POWER SHIFT

2023年7月19日(水)13時00分
マット・ワトリー(元EUジョージア停戦監視団責任者)

いま和平プロセスの肝になっているのは、アゼルバイジャンへの再編入についての同国政府との交渉の進め方と、アゼルバイジャン国内では少数民族となるアルメニア系住民の権利の保障をめぐる問題だ。だがアゼルバイジャンは軍事的に優位な立場にあり、国際法でもナゴルノカラバフの領有権を認められていることから、交渉の主導権をほぼ握っている。アゼルバイジャンに領内のアルメニア系住民の権利を保障させるのは容易ではないだろう。

和平が実現すれば、アルメニアには経済的利益も期待できる。第1次紛争以降、アルメニアは地域で孤立を続け、国境の80%以上を閉鎖してきた。国境が開放されれば、貿易とエネルギー供給の機会が開け、ロシアに極度に依存する必要もなくなる。

 
 
 
 

カスピ海にあるアゼルバイジャン領ガス田からヨーロッパへのパイプラインは、いまアルメニアを迂回してジョージアを経由しているが、アルメニアにガス田関連の利権も生じ得る。さらにアゼルバイジャンの送電網に接続し、カスピ海で開発が予定されている風力発電エネルギーも活用できるようになるかもしれない。

両国の関係が正常化すれば、アゼルバイジャン政府へのアルメニア政府の影響力も増し、アルメニア系住の利益も擁護できるはずだ。

From Foreign Policy Magazine

■日本への影響(文責:ニューズウィーク日本版編集部)

ロシアがウクライナ侵攻後に液化天然ガス(LNG)の供給を絞ったためにガス資源の世界的な争奪戦が起きるなか、アゼルバイジャンはEUにとって有望な代替調達先として期待が高まっている。現在計画が進むアゼルバイジャンからの大幅供給増が実現して大市場である欧州のガス不足が一服するかどうかは、G7で最もエネルギー自給率が低い日本の調達、そしてわれわれの暮らしにも影響を与える。

また中国からアゼルバイジャンなどを経由して欧州を結ぶ現代版シルクロードともいえる貨物ルート「中央回廊」はロシア経由でも海上輸送でもない第3の選択肢として物流業を含む日本企業の関心を集めている。

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トルコ・ギリシャ首脳が会談、ハマス巡る見解は不一致

ワールド

ロシア軍、北東部ハリコフで地上攻勢強化 戦線拡大

ビジネス

中国、大きく反発も 米が計画の関税措置に=イエレン

ビジネス

UBS、クレディS買収後の技術統合に遅延あればリス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子高齢化、死ぬまで働く中国農村の高齢者たち

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 6

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 7

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 8

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 9

    あの伝説も、その語源も...事実疑わしき知識を得意げ…

  • 10

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中