撤退したばかりのF1にホンダはなぜ5度目の参戦をするのか?...「夢の力」と「攻めの姿勢」
The Dream Redux
「ウィリアムズ・ホンダ」は1986年と87年にコンストラクターズ・チャンピオンに輝いた(写真は86年モナコGPのナイジェル・マンセル) JEAN-YVES RUSZNIEWSKIーTEMPSPORTーCORBISーVCG/GETTY IMAGES
<2026年からのF1再参戦を読み解くキーワードは「脱炭素」「米国市場」「サウジアラムコ」。ホンダの「夢」と「攻め」の皮算用について>
ホンダが自動車レースのフォーミュラ・ワン(F1)に再参戦する。2026年から英アストンマーチンのチームにエンジンなどのパワーユニット(PU)を提供する計画を、ホンダの三部敏宏社長が5月24日に発表した。
ホンダは2021年、4度目のF1への参戦から撤退したばかり。20年10月2日に撤退を発表した際に、当時の八郷隆弘社長は「経営資源を電動化に集中させるため」と説明していた。
撤退表明から2年半余がたち、何が変わったのか――。そこからはホンダを取り囲む環境の変化とそれに対応するための戦略や課題が見て取れる。
まず、今回の5度目の参戦について、3つのキーワードからひもとけば合点がいく。1つ目がF1のルール改定だ。
参戦によって得られるノウハウ
F1の世界でも脱炭素を推進するために、これまでは出力の2割までしか電動モーターが認められていなかったのが、26年からは5割まで認められるようになった上、二酸化炭素を出さない100%カーボンニュートラル燃料(合成燃料)の使用が義務付けられた。
21年に社長に就任した三部氏は「2040年までに全世界で販売するホンダの新車を全て電気自動車(EV)と燃料電池車にする」と宣言し、電動化を加速させる考えを表明している。
今回のルール改定によってF1でも電動化が進むことで、ホンダは、参戦により得られるノウハウが量産車や新規事業に活用できると判断した。
例えば、国内で最も売れている軽自動車の「N-BOX」シリーズはF1技術者が開発した。また現在、ホンダが開発中の空飛ぶクルマ(電動垂直離着陸型のEVTOL)にも、F1で培う技術が転用できるとみられる。
三部氏は「F1の現場は技術者を育てる道場。ハードルが高いほど得られる経験知も大きい」と語っている。
2つ目のキーワードが米国市場だ。ホンダの収益源であるアメリカでの四輪車の小売り台数は、23年3月期決算のデータによると、前年同期比で27.7%マイナス、北米地区の営業利益も37.6%減少した。