ほぼあらゆる国の大統領選挙は大接戦...本当にいいことか? 有権者が大きく二分される理由とは
NO CLEAR MANDATES
マクロン(左)とルペン DILARA ACIKGOZーREUTERS
<近年の米大統領選など僅差の結果になる選挙が多いが、それでは勝者が有権者の真の負託を受けたとは言いにくい>
どうして、世界のほぼあらゆる国で大統領選挙の結果が大接戦になるのだろうか。この点は、今日の世界の謎の1つと言っていいだろう。
5月のトルコ大統領選では決選投票で独裁的な現職大統領が再選を果たしたが、対立候補との得票率の差はごくわずかだった。このように、選挙では有権者の判断がほぼ真っ二つに割れることが多い。
選挙結果が僅差になることは、民主主義の勝利だと考える人もいるかもしれない。確かに、そのようなケースもあるだろう。しかし、有権者の約半分の支持しか得られずに政権に就いた指導者は、有権者の真の負託を受けたとは言いにくい。
今日の世界では、権威主義が広がりつつある。ファシズムには『我が闘争』、共産主義には『資本論』があったが、権威主義には『権威主義者宣言』の類いがあるわけではない。世界の多くの国々でいつの間にか権威主義が頭をもたげ、有権者の心をつかみ、自由民主主義を揺るがし始めているのだ。
自由民主主義は、多数派による支配と同じくらい、社会の開放性、人権の擁護、少数派の保護、権力の抑制を重んじる考え方だ。権威主義は、そうした自由民主主義の理念を嘲笑する。権威主義は、私たち誰もが持っている邪悪な部分に付け込んで、閉鎖的な社会、身内びいき、強権支配の快適性と予測可能性により人々を引き付けるのだ。
このような権威主義者たちが僅差で選挙に勝利すると──そして僅差で敗れた場合は一層──厄介なことが起きる。その国に根深い社会的・経済的分断が存在し、右派のポピュリスト政治家がいうなれば社会の下層階級に支持されている場合は、問題が一層増幅される。そのような国では、右派勢力が富の再分配を主張するという皮肉な状況が生まれる場合も多い。
53%で地滑り的な圧勝?
最近、大統領選の得票がほぼ半々に割れた例としては、先のトルコ大統領選を挙げることができる。5月28日の大統領選決選投票では、独裁的な現職のレジェップ・タイップ・エルドアンが52%の得票率で再選を決めた。野党統一候補であるリベラル寄りのケマル・クルチダルオールの得票率は48%だった。
イスラム主義者のエルドアンは、これまでトルコに途方もなく大きな害を及ぼしてきた。今日のトルコでは、軍人や政治家や市民活動家やジャーナリストが相次いで投獄されていて、裁判所は政権の顔色をうかがい、メディアは大統領の盟友によって運営されている。エルドアン政権の下で、トルコ経済に及んだ打撃も計り知れない。それでも、トルコ国民のおよそ半分は、それでも構わないと思っているようだ。