ワグネルを支配する「ロシア刑務所の掟」が戦場に染み出す...極めて厳格な身分制度の「4つの階級」とは?
A THIEVES' WORLD
プリゴジンは前述のテレグラムへの投稿で、国のために戦っても刑務所カーストからの解放はないことを明言している。戦闘員不足にあれほど悩まされているロシアが、凝り固まった「身分制」にこだわるのは奇異に映るかもしれない。だが裏社会の掟(刑務所の中の掟だけでなく、犯罪者たちのあるべき行動、やってはならない行動を規定する不文律)をそう簡単に捨て去るわけにはいかないのだ。
2月21日にリークされた受刑者向けスピーチの動画でも、プリゴジンが裏社会の掟を尊んでいることが見て取れる。「必要なのは犯罪者の人材だ。私自身、ロシアの英雄になる前に10年間、服役した」とプリゴジンは語るとともに、ワグネルが裏社会の掟に基づいて運営されていることを強調した。「あらゆる暗黙のルールをわれわれは尊重している」
プリゴジンによれば、暴力犯罪を犯した受刑者はヒエラルキーの頂点だ。望ましい罪状は殺人に重傷害、強盗、武装強盗。「取締官や警官をたたきのめした場合はさらにポイントが高くなる」と彼は述べた。
だが、これで優秀な部隊ができるはずがない。組織的な暴力に従事するのは肉体的にも精神的にもきつい。だからこそ軍隊では、兵士間の仲間意識や士官への敬意(少なくとも服従)が不可欠なのだ。
元ワグネルの犯罪が急増中
しかし、ワグネルを支えているのはそれとは異なる文化だ。互敬の精神も軍隊の伝統も存在せず、最上位カーストの受刑者にとって軍隊内の上官に服従するのは文字どおりタブーだ。死者への敬意もない。刑務所の掟とヒエラルキーがあるから、ワグネルの戦闘員は互いに絆を結ぼうとはしない。そもそも彼らは「消耗品」なのだ。
刑務所文化が軍隊内に広がったことが、ロシア軍が残酷の度を増し、ウクライナ各地で戦争犯罪が起きた原因の1つかもしれない。他方でそれは、ロシア国内にも悪しき影響をもたらしている。元受刑者らは半年間の契約期間を終えると、戦闘員をやめて故郷に帰る。これは本来の刑期よりずっと短い。
ロシア国内での元ワグネル戦闘員による犯罪は増加の一途だ。アナリストや、ミハイル・ホドルコフスキーのようなロシアの野党政治家らは、犯罪が急増し暴力の時代となった1990年代の再来だと危機感を募らせている。裏社会のボスたち、刑務所の掟、そして広い意味でのパニャーチエが社会の中で再び勢いを増している。ロシアという国そのものが無法地帯と化しつつある。しかも90年代と違い、犯罪者たちは軍用の武器を持っている。
だが、西側メディアはこうした側面をほとんど見過ごしている。プリゴジンの発言を報道する際も、肝心な点を伝えていない。