ワグネルを支配する「ロシア刑務所の掟」が戦場に染み出す...極めて厳格な身分制度の「4つの階級」とは?
A THIEVES' WORLD
ロシアの刑務所内の身分制度は極めて厳格なものだ。そのルールは、ヒエラルキーの頂点に位置する受刑者たちの利害に沿うものであり、刑務所の管理者たちもそうした身分制度の存在が受刑者を統制する上で好都合だと考えている場合もある。
受刑者は、大まかに4つの階級に分類される。カースト制度さながらに、上の階級に昇格することは不可能に等しいが、下の階級に降格することは至って容易だ。下の階級に転落することへの恐怖は、刑務所内のあらゆる人間関係に影響を及ぼす。その4つの階級は、それぞれ「盗賊」「男」「雄ヤギ」「雄鶏」という隠語で呼ばれている。
「盗賊」は、刑務所の受刑者の中の権力者。職業的犯罪者や、犯罪者の世界の一員として常にそのルールの下で生きることを選んだ者たちだ。盗賊は人数こそ少ないが、刑務所内で絶大な権力と影響力を握っている。この階級には、マフィアの首領のような者も含まれる。
「男」は、大きなトラブルなしに刑期を終えたいと思っている者たち。刑務所の掟のことは知っていて、それを尊重する。刑務所の管理者側に協力することはしない。
「雄ヤギ」は、刑務所の管理者たちに協力するが、刑務所の暗黙の掟も尊重して行動する。刑務所内のヤミ商人として、たばこやドラッグやゲーム機などの品物を調達する者もこの階級に属する。
「雄鶏」階級の過酷な現実
最下層のカーストが「雄鶏」だ。受刑者の誰もがこの階級への降格に怯えている。ここに転落するのは簡単だが、いったん転落すると二度とはい上がることはできない。
雄鶏たちは、刑務所内で誰もが嫌がる仕事を押し付けられる。便器の掃除や、他の受刑者の下着の洗濯などをさせられるほか、しばしば性奴隷として扱われるのだ。
この階級は、刑務所における不可触民のような存在だ。他の階級の受刑者は、性行為以外で雄鶏と接触すべきではないとされている。実際にその体に触れるだけでなく、この者たちが触った物に触れることも原則として禁忌とされている。他の階級の受刑者がこの禁忌を犯した瞬間に、その人物も雄鶏階級に転落する。雄鶏が刑務所で他の房に移動するときは、自分の身分を宣言しなくてはならない。
上位の受刑者と雄鶏の間で認められている「付き合い」は、性的サービスの売買にレイプ、そして暴力に限られる。暴力は蹴るか道具を使うかで、殴るのは触れることになるのでタブーだ。雄鶏の立場は実に悲惨で、自殺に追い込まれる者も多い。盗賊たちにわざと触れて報復を図るケースもあるが、命懸けだ。