最新記事
ロシア

ワグネルを支配する「ロシア刑務所の掟」が戦場に染み出す...極めて厳格な身分制度の「4つの階級」とは?

A THIEVES' WORLD

2023年6月7日(水)15時10分
クリスタプス・アンドレイソンズ(ジャーナリスト、在ラトビア)
プリゴジンとワグネルの戦闘員

ウクライナ東部バフムートで声明を発表するプリゴジンとワグネルの戦闘員 PRESS SERVICE OF “CONCORD”ーHANDOUTーREUTERS

<ワグネルの囚人部隊を支配する独自の規律、裏社会の論理を理解せずにロシアと戦争の本質は分からない>

ロシアはウクライナを侵略したことにより、さまざまな面で大きな代償を払わされることになった。ロシア軍の人的損害は特に深刻だ。ロシア軍は侵攻開始初期から多くの戦闘員を失い続けている。

そうした戦闘員不足の穴埋めをしてきたのが、ウラジーミル・プーチン大統領の盟友とされたエフゲニー・プリゴジンが率いる民間軍事会社「ワグネル」だ。ワグネルは、ロシアの刑務所に収監されている受刑者の中から、活発に、時には強引な方法で戦闘員を集めている。受刑者には、戦闘に参加することと引き換えに、任務が終了した後の自由が約束される。同様の戦闘員確保の方法は、ロシア国防省も正規軍で採用するようになった。

西側諸国の専門家は見落としがちだが、受刑者が戦闘に参加するようになり、刑務所の文化が戦闘員の日常と戦争の在り方に大きな影響を及ぼし始めている。

ロシアの社会で犯罪者たちの慣習や規範が強い影響力を持つのは、最近に始まったことではない。実際、プーチンの周辺で大きな権力を振るっている人の中には、刑務所への服役経験の持ち主が驚くほど多い。ワグネルのプリゴジンもその1人だ。しかし、ウクライナ侵攻が始まって以降、犯罪者たちの文化が持つ影響力は一層強まっている。

刑務所を支配する4つの階級

4月9日、プリゴジンの広報担当部門がメッセージアプリの「テレグラム」に、戦闘員になった受刑者の置かれている状況について寄せられた質問に対する回答を掲載した。その回答の中でプリゴジンは、政府がそうした戦闘員たちを不適切に扱っていると厳しく批判している。

「(身分の低い受刑者たちが)一般の受刑者たちと一緒に肩を並べて戦っているという噂が聞こえてくる。こうしたことは(刑務所の)掟、いわば不文律に真っ向から反する。誰もが知っているとおり、ロシア人は何世紀もの間、そのようなルールに従って生きてきた。その意味で現在の状況はとうてい容認できるものではないと、私には思える」

事情を知らない人が読むと、意味不明の文章に思えるかもしれない。しかしロシアの刑務所文化に照らせば、これは完全に筋が通っている。

その文化は帝政ロシアの時代に端を発するが、主に旧ソ連時代の刑務所や収容所で形づくられていった。この文化の核を成すのは、「パニャーチエ」(直訳すると「概念」といった意味)と呼ばれる暗黙の掟だ。その掟の下、受刑者が取るべき行動、さまざまな禁止行為と違反者への厳しい罰則、そして刑務所内の身分制度などがルール化されている。

社会的価値創造
「子どもの体験格差」解消を目指して──SMBCグループが推進する、従来の金融ビジネスに留まらない取り組み「シャカカチ」とは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中