最新記事
ウクライナ情勢

ロシア国境地帯のパルチザン攻撃はウクライナ反転攻勢の準備?

Explosions in Belgorod As Russia Faces 'Multi Domain Security Threat'

2023年5月24日(水)17時58分
ブレンダン・コール

ウクライナ国旗の色を身につけ、ロシア国内でポーズする武装組織(5月23日、ベルゴロド州コズニカ) Russian Volunteer Corps/REUTERS

<ウクライナ政府はパルチザン攻撃への直接的な関与を否定しているが、軍事専門家は、それはウクライナの反転攻勢計画と「連携」していると言う>

ウクライナと国境を接するロシア西部のベルゴロド州で、ロシアのパルチザンを自称する武装集団が、ロシア治安部隊と衝突したことを受け、英国の国防当局は、ロシアのウクライナ国境地帯が複数の脅威に直面していると分析した。ベルゴロド州の中心都市は、夜通しドローンによる攻撃を受けたと報じられている。

ソーシャルメディアで共有された動画では、ベルゴロド州にある、ロシア連邦保安局(FSB)や内務省が入る建物を狙ったとされる爆発がとらえられている。別の映像では、ウラジーミル・プーチン政権打倒をめざす「自由ロシア軍団」が、自分たちがベルゴロド州のコジンカを制圧し、グライボロンの町へ部隊を送ったと主張している。

ウクライナ当局は、今回の衝突への直接の関与を否定し、武装集団はロシア国民で構成されていると述べている。だが、ある専門家が本誌に語ったところによれば、この侵攻はウクライナの反転攻勢計画と「連携している」という。

英国防省(MOD)によれば、5月19日から22日にかけて、ベルゴロド州内の少なくとも3か所で、ロシア治安部隊とパルチザンとの衝突があったという。

ウクライナの側に立って戦っていると主張するロシアの反政府勢力----「ロシア義勇軍団」と自由ロシア軍団----が、犯行声明を出している。

グライボロンの町の国境検問所で撮影されたとされる急襲場面では、血だまりのなかに横たわるロシア軍の将校を含む戦死者と、検問所を通過しているらしい装甲車両が見てとれる。小型の武器による銃撃戦や、ドローンや火器による間接的な攻撃の増加も報告されている。

ベルゴロド州のビャチェスラフ・グラトコフ知事がテレグラム上で述べたところによれば、ベルゴロド市や州内各所の上空で、ドローンが対空システムによって撃墜されたという。グラトコフは、対テロ作戦の発動を明らかにしたほか、複数の村で避難が進んでおり、民間人に死者はいないとつけ加えた。ロシア政府もこの地域に、追加の治安部隊を派遣した。

英国防省は、5月23日のアップデートのなかでこう述べている。「ロシアは国境地帯において、さまざまな分野における深刻な安全保障上の脅威の拡大に直面している。戦闘機の喪失や、即席爆発装置(IED)による鉄道線路への攻撃、そして、今回の直接的なパルチザンの攻撃などだ」

「ロシア側は、ほぼ間違いなくこの攻撃を、自国こそが戦争の被害者だというロシア政府のプロパガンダに利用するだろう」と英国防省のリポートは付け加える。ロシア政府は、この攻撃をウクライナの工作員によるものと非難している。

ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領府長官顧問は、ウクライナはこの攻撃への直接的な関与は否定した上で、ロシアのパルチザン活動は、戦争を背景にして必然的に起きているものだと述べた。

だが、欧州政策分析センター(CEPA)で、大西洋横断防衛・安全保障分野の非常勤シニアフェローを務めるスティーブン・ホレルは、武装組織に対するウクライナ治安当局の支援が最小限であったとしても、「(この攻撃は、)ウクライナの反転攻勢に向けた準備段階に相当する「形成作戦(shaping operation)」と連携している」と述べた。

ホレルによれば、ベルゴロドには複数の兵站拠点があり、ロシアによる攻撃の起点になっているという。「今回の攻撃と並んで、敵陣深い場所への攻撃も見られ始めている」と、ホレルは本誌に語った。「また今回は複数の村を占領していることや戦闘用車両の比重の大きさから見ても、これまでの越境攻撃や奇襲より本格的に見える」

「ロシアが不安で兵を割かなければならない場所が増えるほど、ウクライナ軍が1カ所または複数カ所でロシアの守りを突破できる可能性が高くなる」

(翻訳:ガリレオ)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中