最新記事
司法

「仮釈放はさせない」──反省なく犯人が社会に戻ることは絶対に許さない、被害者家族の闘い

My Brother’s Killer Is Up for Parole

2023年5月11日(木)14時31分
ステン・エリック・カールソン(自動車産業の元重役、カリフォルニア州在住)

230516p58_MTN_02Bsai.jpg

1965年のクリスマスを兄弟で祝う STEN ERIC CARLSON

カリフォルニア州の死刑制度は複雑な変遷をたどってきた。1976年、州は死刑を廃止。パバジョーも減刑されることになり、次に重い量刑(仮釈放の可能性がある終身刑)が改めて言い渡された。

やがて毎年行われる仮釈放の審査は私たち家族にとって日常の一部になった。私はいつも、仮釈放審査の聴聞会が開かれている部屋の隣で両親を待っていた。

私たちはずっと、官僚主義の迷路に閉じ込められたと感じていた。78年には死刑が復活したが、あの男の刑は元に戻らなかった。こうしてパバジョーを刑務所に閉じ込めておくための45年にわたる闘いが始まった。

司法制度の壁は厚い

その間に両親は、犯罪被害者とその家族を守る運動に力を入れるようになった。母は「殺人被害者のための正義」という団体を立ち上げ、州都サクラメントや首都ワシントンで仲間と仮釈放審査や量刑手続きのルール改正を訴えたが、その実現は容易ではなかった。

2010年と11年に両親がそれぞれ亡くなった後も、私は闘い続けた。今は、私と同じように官僚的で冷たい司法制度の厚い壁に圧倒されていると感じる人々を助ける団体で活動している。

今年4月25日、パバジョーは再び仮釈放の審査を迎えた。私はカリフォルニア州仮釈放委員会で被害者として意見陳述を行い、この冷酷な殺人犯を拘束し続けるよう要請した。私たち家族が意見陳述を求められたのは、これで18回目だ。

仮釈放委員会はパバジョーをさらに最長15年間収監する権限があるが、その確率は低いだろうと私は考えていた。むしろ釈放の可能性すらある、と。

義姉のアネットにとって、聴聞会は言葉にできないほどのトラウマだ。自分の人生を破壊した人間と対面する状況に身を置くことはできないので、義姉は弁護士を代理人に立てた。

犯罪行為の詳細を何度も何度も聞かされた上に、受刑者の態度に変化がないのを目にするのは耐え難い経験でしかない。幸い、見ず知らずの他人による殺人はめったに起きることはない。だが実際に起きた場合、被害者の家族や友人が受ける付帯的被害は甚大だ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中