ウクライナ戦争の影響は温暖化対策にも 機能低下の北極評議会、高まる氷解リスク
さらに心配なのは、ロシアがこの地域の問題で独自の道を歩むばかりか、対抗する評議会を設立する可能性だ。
ロシアは最近、北極圏で非北極圏諸国との協力関係を拡大するための措置を講じている。ロシアと中国は4月24日、北極圏における両国の沿岸警備隊の協力関係を定めた覚書に署名した。
それに先立つ4月14日、ロシアは中国、インド、ブラジル、南アフリカのBRICS諸国をスバールバル諸島のロシア人居住地に招き、調査を実施した。同諸島はノルウェーの主権下にあるが、1920年の条約に基づき他国も産業活動を行える。
米ホワイトハウス北極圏運営委員会の執行ディレクター、デビッド・バルトン氏は「ロシアが北極圏以外の国、特に中国と関係を築こうとしており、これは懸念すべき事態だ」と述べた。
ロシアのコルチュノフ氏は、軍事的な意図を持たない限り、北極圏に非北極圏の国が来るのをロシア政府は歓迎すると説明。「われわれが純粋に平和的なパートナーシップ形態に専念している背景には、非北極圏諸国と科学・経済協力を築くことの必要性もある」と述べた。
ロシアとの関わり方
ノルウェーは、ロシアからの議長国の円滑な引き継ぎを「楽観視」していると言う。北極評議会を維持することが、全ての北極圏諸国の利益となるから、というのがその理由だ。
ノルウェーのペテルソン外務副大臣は、ロイターに対し「北極圏協力のための最も重要な国際フォーラムとして北極評議会を守り、存続させる必要がある」と述べた。
しかし、ノルウェー自体、ロシアとの関係が緊迫化している今、それは容易ではないだろう。ノルウェーは今年4月、ロシア外交官15人をスパイだとして追放した。ロシアはこれを否定。コルチュノフ氏は、この追放によって協力に必要な信頼が損なわれたと語った。
それでも、ノルウェーはロシアとの微妙なバランスを取る役目に適している、とアナリストは言う。ノルウェーは北大西洋条約機構(NATO)加盟国であり、北極圏でロシアと国境を接している。
オスロのフリチョフ・ナンセン研究所で北極の統治・安全保障の上級研究員を務めるSvein Vigeland Rottem氏は「政治的に許されるようになった場合、ロシアを北極評議会に再び迎え入れるべくドアを開けておく可能性について、ノルウェーは最も率直に発言してきた」と述べた。
デンマークのAaja Chemnitz Larsen議員は「将来的にロシア抜きの北極評議会はあり得ない」と指摘。「いつか(ウクライナでの)戦争が終わり、違う時代が訪れた時に備えておく必要がある」と語った。
(Humeyra Pamuk記者、Gloria Dickie記者、 Gwladys Fouche記者)