ウクライナ戦争の影響は温暖化対策にも 機能低下の北極評議会、高まる氷解リスク
北極評議会は30年近くにわたり、冷戦後の協力関係の成功例として知られてきた。写真はノルウェー・ロングイェールビーン近郊の景色。4月5日撮影(2023年 ロイター/Lisi Niesner)
北極評議会は30年近くにわたり、冷戦後の協力関係の成功例として知られてきた。ロシアや米国を含む加盟8カ国は、気候変動に関する研究や、生態系に注意を要するこの地域の社会開発で協力してきた。
しかし、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、加盟国はロシアとの協力を中止。北極の海岸線の半分以上を支配するロシアと協力できない以上、北極評議会の存在意義は脅かされかねないとの懸念が専門家の間で高まっている。今月11日にはノルウェーがロシアから議長国を引き継ぐ予定だ。
北極評議会が機能不全に陥れば、この地域の環境と400万人の住民に悲惨な影響が及びかねない。海氷融解の影響を受ける上、ほぼ未開発の鉱物資源に対して非北極圏諸国が関心を抱いているからだ。
評議会はフィンランド、ノルウェー、アイスランド、スウェーデン、ロシア、デンマーク、カナダ、米国の北極圏8カ国で構成。過去には環境保護・保全に関する拘束力のある合意を生み出している。
評議会は、北極圏の先住民族が声を届けられる貴重な場でもある。安全保障問題は取り扱わない。
だが、ロシアとの協力関係が断たれたことで、130のプロジェクトのうち約3分の1が棚上げされ、新規プロジェクトは進められず、既存のプロジェクトは更新できていない。欧米とロシアの科学者が気候変動の研究成果を共有することはなくなり、捜索救助活動や原油流出事故についての協力も停止している。
アンガス・キング米上院議員は、ロイターに対し「北極評議会が様々な問題を解決する上で、この状況が深刻な足かせになるのではと心配している」と述べた。
地域分断も
北極圏は、世界の他の地域と比べて約4倍の速さで温暖化が進行している。
海氷が消え、北極の海は海運の他、石油、ガス、金、鉄鉱石、レアアースなど天然資源の開発に熱心な産業に開放されつつある。
ロシアと他の加盟国との不和により、こうした変化に有効な対応が採れる可能性は大幅に低くなった。
ハーバード・ケネディースクールの北極圏イニシアチブ共同ディレクターで、オバマ元米大統領の科学顧問だったジョン・ホールドレン氏は「ノルウェーが大きな課題を抱えている。ロシアを欠いた状態で、北極評議会の優れた活動を最大限守り抜くという課題だ」と述べた。
一方、ロシアは同国なしに活動は続けられないと主張する。同国のニコライ・コルチュノフ北極圏大使はロイターに、北極評議会は弱体化しており「北極問題に関する主要なプラットフォームであり続けることができる」という自信はないと語った。