「時限爆弾」だと専門家は警告...アメリカ社会を蝕み始めたスポーツ賭博、その標的とは
RISKY BUSINESS
連邦政府の本気度が試される
オーストラリアはもともと、個人の判断に任せる方針だったが、近年にテレビ広告の制限など規制をかけ始めた。シドニー大学のギャンブル依存症治療・研究クリニックを率いるサリー・ゲインズベリーは「私たちが遅まきながらやっていること、つまり低リスクの賭けの奨励をアメリカは早めにやれる」と話す。
ゲインズベリーによると、ギャンブルで治療を要するような問題が出てくるには通常10年程度かかる。「放っておけば、オンライン賭博絡みの問題が大幅に増加するだろう。そうなるとギャンブラー個人とその家族にとどまらず、コミュニティー全体に有害な影響が及ぶ」
だがアメリカで近い将来、大胆な規制が新たに導入される見込みは薄い。州法で賭博が解禁されても州境を越える取引については連邦政府が規制できるはずだが、今のところ規制の動きは皆無だと、ラトガーズ大のナウワーは言う。「連邦当局は対策に本腰を入れるべきだ。賭けの賞金から莫大な税収を得ているのだから、専門部署を設けて依存症などの問題に対処する責任がある」
一部の州は賭博の広告を禁止するか制限することを検討しているが、広告規制は表現の自由を保障した憲法修正第1条に抵触する恐れがある。そのため州当局は腰が引けていると、スポーツ賭博を専門とするオクラホマ州立大学の経営学の准教授ジョン・ホールデンは最近、CNNに語った。「当局者として、州の予算から多額の裁判費用を出したり最高裁で敗訴するのは避けたいところだ」
21年の調査によると、アメリカの9つの州は電話相談サービスなどの対策費を計上しておらず、計上している州も州民1人当たりの金額は年額約40セントにすぎない。アメリカでは薬物使用による障害はギャンブル障害より約7倍多いが、薬物依存症の治療に投じられる公的予算はギャンブルの問題に対処するあらゆる事業の予算の約338倍にも上る。
ネブラスカ州のギャンブル依存症対策事業を率いるデービッド・ガイヤーによると、最大の障壁はギャンブル規制の州法も、依存症対策の予算措置もつぎはぎだらけで一貫性を欠くことだ。「対策事業を実施していても、公的予算がゼロでボランティア頼みの州もある。ネブラスカ州は予算も付くし法整備も進んでいるので、恵まれているほうだ」
イギリスやオーストラリアやカナダなど依存症対策に多額の予算を投じている国々では成果が出始めているが、アメリカははるかに後れを取っていると、ガイヤーは言う。「残念ながら、われわれが生きているうちには追い付けそうにない」
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