今も世界で10億人が魔術を信仰している
(写真はイメージです) T.Den_Team-shutterstock
<スウェーデンで9%、チュニジアでは90%──地域によってここまで魔術信仰率が違う要因とは?>
「世界の14万人以上のデータを分析したところ、95の国と地域で約10億人がいまだに魔術を信じていると推測される」と、アメリカン大学の経済学者ボリス・ガーシュマンは昨年11月に発表した。魔術信仰を隠すケースもあるため、実際はさらに多いと考えられるという。
今回の分析は、米ピュー・リサーチセンターなどが2008~17年に実施した大規模な対面・電話調査のデータを使用。魔術については、「邪視」や「他人を不幸に陥れる呪いやまじない」を信じるかなどを質問した。魔術信仰者の割合は地域差があり、例えばスウェーデンの9%に対しチュニジアは90%だった。
教育水準が高く経済的に安定している人ほど魔術を信じない傾向があり、宗教や神を信仰する人は魔術も信じる場合が多かった。国の社会制度の弱さ、社会的信頼の低さ、イノベーションの低さも魔術信仰率の高さに関連していた。慣習や伝統に従う傾向や、身びいきの強い文化があることも影響するようだ。
この研究で魔術信仰への理解が深まれば、そうした信仰の強い地域の人々との交流や、魔女の汚名を着せられた女性の保護に役立つとガーシュマンは期待している。
[筆者]
茜 灯里(作家・科学ジャーナリスト)
東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専攻卒業。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)、獣医師。朝日新聞記者、国際馬術連盟登録獣医師などを経て、現在、立命館大学教員。サイエンス・ライティング講座などを受け持つ。文部科学省COI構造化チーム若手・共創支援グループリーダー。第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。デビュー作『馬疫』(光文社)を2021年2月に上梓。