中東諸国の「政略結婚ブーム」に乗り遅れる、イスラエルに足りないもの
PRAGMATISM PREVAILS
トルコはシリア、イスラエル双方と関係を修復している。イランを後ろ盾とするシリアを再び受け入れることには、アラブ諸国も前向きのようだ。2011年の内戦勃発以来、孤立してきたシリアのアサド大統領は3月中旬にUAEを訪問。同月下旬には、サウジアラビアと関係再開で合意した。
しかし「中東式結婚」の重大な特徴は、当事国の中核的利益を反映する政策が変化しない点にある。サウジアラビアに再び大使館を設置しようと、イランはレバノンにおける代理組織で、イスラエルと敵対するヒズボラへの支援を縮小したりはしない。
だが何よりもまず、イスラエルは国内政治の秩序を回復し、占領地での衝突悪化を防ぎ、対米関係を改善する必要がある(編集部注:イスラエルのコーヘン外相は4月19日、サウジアラビア訪問を検討中だと語った)。
さらに根源的にはアラブ諸国やトルコ、イランが了解済みの事実を、イスラエルは理解しなければならない。完全勝利という不可能な目標を追求するより、現実主義的な取引を結ぶほうがずっと得策だ、と。
イスラエルがUAEやバーレーン、モロッコと相次ぎ国交正常化した20年のアブラハム合意は、アメリカの圧力の産物という面が強かった。現在、新たなパートナーになり始めたアラブ諸国にとって、国内危機を抱えるばかりか、対イラン戦略の再考を拒むイスラエルの地位は既に低下している。
イスラエルはイランとの「影の戦争」にこだわり、サイバー攻撃やシリア国内のイラン関連施設への空爆を続けている。中東は「結婚ブーム」の最中だが、ビジョンや勇気に欠けるイスラエルが近いうちに、縁組にこぎ着けることはなさそうだ。
シュロモ・ベンアミ
SHLOMO BEN-AMI
イスラエル元外相。世界各地の紛争解決を目指す「トレド国際平和センター」副所長。著書に『戦争の痕、平和の傷──イスラエルとアラブの悲劇』がある。