最新記事
中東

中東諸国の「政略結婚ブーム」に乗り遅れる、イスラエルに足りないもの

PRAGMATISM PREVAILS

2023年4月26日(水)15時47分
シュロモ・ベンアミ(歴史家、イスラエル元外相)
アミール・アブドラヒアン外相,ファイサル・ビン・ファルハン外相

イランのアミール・アブドラヒアン外相とがサウジアラビアのファイサル・ビン・ファルハン外相が北京で会談(2023年4月)Handout -REUTERS

<宗教的アイデンティティーよりも「実益」を重視するアラブ諸国。この「アラブ的現実思考」を直視しないと、イスラエルの地位は低下する一方>

アメリカがウクライナでのロシアとの対決に注力し、中国との競合を加速させるなか、中東ではいつもながらの動きが起きている。対立国同士の「政略結婚」だ。

この「結婚」は冷静な現実主義に基づく取引で、変化する戦略状況に適した短期的関係の構築を目的としている。イスラエルが、それを理解しているといいのだが......。

もちろん、中東の敵対関係や同盟関係では、宗教・宗派が大きな要素になる。だがイスラム教のスンニ派とシーア派の対立は、過剰に意味付けされている。

地政学的利益や体制存続は常に、宗教的アイデンティティーに優先する。この事実を認識すれば、保守的なアラブ諸国が国内の動乱(いい例が民主化要求運動「アラブの春」だ)と国外からの圧力に、優れた抵抗力を発揮する理由が見えてくる。

典型的なのが湾岸諸国だ。ビジネス重視で、侵略的なイラクやイランの近隣に位置する国々は、イデオロギーより通商や安全保障への関心がはるかに高い。

その現実主義が顕著に発揮されたのが、スンニ派の盟主サウジアラビアとシーア派大国イランの外交関係正常化だ。両国は3月10日、大使館の再開などで合意したと発表。中国の仲介だったことが話題になったものの、路線転換を促した論理は明快だ。

経済的・社会的危機と抗議活動に揺れるイランは、サウジアラビアという命綱が欲しい。一方、アメリカの対イラン政策が失敗し、イランの核保有が迫るなか、サウジアラビアにとって緊張緩和は必須だった。

イエメン内戦という動機もある。暫定政府側のサウジアラビアは、イランが支援するホーシー派に苦戦を強いられてきた。和平が実現すれば、原油・石油化学製品頼みの経済からの脱却に専念できる。

これは地域的な動きの一環だ。アラブ首長国連邦(UAE)は昨年、イランとの外交関係を格上げし、バーレーンもイランとの関係再開に踏み切る見込みだ。

試写会
カンヌ国際映画祭受賞作『聖なるイチジクの種』独占試写会 50名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中