最新記事
習近平

権力集中に走る習近平の野心と不安

Xi’s Latest Power Grab

2023年4月11日(火)13時20分
練乙錚(リアン・イーゼン、香港出身の経済学者、コラムニスト)
習近平

習近平の子飼いともささやかれる李強首相(左)なら裏切られる心配はない? 新華社/AFLO

<政府機構改革でさらに権力を掌握した習、歴史はいずれクーデターが起きることを示唆するが>

中国共産党の習近平(シー・チンピン)総書記が、3月の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で3期目の国家主席に選ばれた。選ばれたといっても、賛成2952票、反対ゼロの完全な「出来レース」だった。

全人代は国務院(政府)の組織改革案も可決した。これは習が2013年に初めて国家主席に選ばれたときから進めてきた、国から党への権力移管(というより奪取に近い)の一環だ。

これまでに習は党内に経済や財政、サイバーセキュリティー、諜報活動、外交などの政策を検討・提案する「領導小組」を設置し、やがてそれを本格的な決定権を持つ「委員会」に格上げすることで、国務院を迂回するシステムを確立してきた。

今回は、金融や科学技術、香港・マカオ問題などを指揮する委員会や工作弁公室が党内に設置され、党中央の直轄とされた。

なかでも一部が眉をひそめたのは、社会全体の思想工作を図る「中央社会工作部」の設置だ。その名前が、かつて毛沢東が党内のライバルを粛清するために利用した中国共産党の公安機関「中央社会部」と酷似しているからだ。

話は建国前の1931年にさかのぼる。清朝崩壊後、中国を統治していた国民党は、中国共産党と激しい内戦を繰り広げていた。そして共産党の諜報活動に従事していた顧順章(クー・シュンチャン)を逮捕すると党の機密を白状させ、共産党の要員や秘密拠点を一網打尽にした。

顧の裏切りに激怒した周恩来は、特殊部隊に命じて顧の妻ら親族約30人を殺害させた。これを知った国民党は、大衆やメディアの前で顧一家の遺体を掘り起こし、共産党の残忍性を大衆に見せつけた。

こうしたこともあり、国民党の猛烈な攻勢に押された共産党は、本拠地を陝西省延安に移して態勢を立て直すことにした。毛はこの過程で共産党の指導者となったが、絶対的な指導者というわけではなかった。ソ連の支持を受けた強力なライバルがいたからだ。

裏切者は絶対許さない

そこで39年、毛は党内に中央社会部を設置し、モスクワでスパイ活動と粛清のテクニックを学んだ康生(カン・ション)を責任者に据えた。

そのスパイ活動は国民党に対してだけでなく、共産党内の毛のライバルたちにも向けられ、大量の粛清が行われた。いわゆる整風運動だ。

その後も康は、毛の腹心として、約30年にわたり多くの人物の粛清に関わった。習近平の父・習仲勲(シー・チョンシュン)もその被害者の1人だ。

だが、習近平は毛や康の流れを継承すると同時に、超越する措置を講じてきた。党の中央規律検査委員会と国家監察委員会は共産党成立100周年の2021年、顧が党を裏切った事件を詳細に説明し、口先だけではなく行動においても党への絶対的な忠誠を要請する声明を発表した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中