最新記事
習近平

権力集中に走る習近平の野心と不安

Xi’s Latest Power Grab

2023年4月11日(火)13時20分
練乙錚(リアン・イーゼン、香港出身の経済学者、コラムニスト)

習が3月に設置した中央社会工作部は、社会全体とりわけ「新社会階層」を監視するつもりらしい。つまり企業経営者などの資本家や、技術職や専門職に就く人々だ。彼らは習の最大のライバルである、江沢民(チアン・ツォーミン)と胡錦濤(フー・チンタオ)に親和的な傾向がある。

習は少なくとも11の重要な領導小組や委員会のトップに就いており、それ以外の分野についても目を光らせている。だが、そんなに幅広い領域を管理できるのか。なぜ、そんなに国務院から権限を奪いたいのか。昨秋の第20回中国共産党大会で、腹心の李強(リー・チアン)を党序列第2位に引き上げ、ライバルを一掃したのではなかったのか(李は今回の全人代で、予想どおり首相に選ばれた)。

習はマルクス・レーニン主義者だから、全てを掌握したいのだという説もあるが、そのような安易な説明はあまり役に立たない。

党と国務院は歴史的に対立関係にあった。文化大革命の時代、その対立は直ちに命に関わった。中国の権力の中枢である中南海(紫禁城に隣接する地区)は、南側に党中央、北側に国務院が配置されており、「南北戦争」と呼ばれることもある。

歴代皇帝も首相に不信感

党の最高指導者と行政のトップである首相の緊張関係は、歴代皇帝と丞相(じょうしょう、現代でいう首相)との関係と似ている。

王朝時代の中国で、皇帝を補佐する丞相の役割が整備されたのは秦の時代のこと。だが、その後数世紀にわたり、権力を自らの手に集中させる皇帝が続いたため、丞相の地位は低下した。

これは歴代皇帝が、丞相に自らの地位を脅かされることを心配したためである、という点で、歴史家の意見はおおむね一致している。どの王朝も戦争の結果誕生していたから、皇帝の近くにいて、その弱みを知る人物が警戒されたのは無理もない。

その極端な例が、明の太祖・洪武帝だろう。丞相の1人の謀反計画が発覚したのを機に、洪武帝は丞相と中書省を廃止。以後2世紀半にわたり、明には丞相がいなかった。

丞相の廃止により、皇帝は官僚の人事や財政、軍事などの実務を担当する6つの部門を直接指揮することになった。それでも洪武帝は壮年で能力も高かったから、煩雑な日常業務をこなすことができた。

だが、その後のほとんどの皇帝は違った。彼らはきちんとした能力のない部下(多くは宦官)に権限を委ね、その結果、腐敗が蔓延し、容赦ない権力闘争が起こった。

実際、明の統治は歴代王朝で最悪だったと言われる。17世紀の偉大なる儒学者・黃宗羲は、「明時代に良い統治が欠けていたのは、洪武帝が丞相を廃止したせいだ」と語っている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ブラジル大統領選、ボルソナロ氏が長男出馬を支持 病

ワールド

ウクライナ大統領、和平巡り米特使らと協議 「新たな

ワールド

プーチン大統領、トランプ氏にクリスマスメッセージ=

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    【銘柄】「Switch 2」好調の任天堂にまさかの暗雲...…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中