最新記事
ロシア

ファシズム国家の冷酷さを直視せよ

Get Out of Russia

2023年4月10日(月)13時20分
ナターリア・アントーノワ(ジャーナリスト)
モスクワの裁判所から姿を見せたゲルシュコビッチ

モスクワの裁判所から姿を見せたゲルシュコビッチ(3月30日) EVGENIA NOVOZHENINAーREUTERS

<米国人記者がスパイ容疑で拘束。独裁体制の人質戦略から距離を取り近づくな>

ロシアがファシズムを完全に受け入れた。今や、専制国家のイランや中国と類似する要素を示し始めている。

最大の共通項の1つが「人質戦略」だ。ロシアの残虐行為との戦いに協力する西側諸国の出身者は今すぐ、この国を脱出しなければならない。

ウクライナ侵攻はゲームのルールを変えた。ロシア政府は国外で虐殺を行う一方、国内では疑心暗鬼を強めている。アメリカのパスポートは身の安全の保証にならない。それどころか、ロシア当局の注意を引く可能性が高い。

ロシアでは近年、米女子プロバスケ選手や元米海兵隊員が逮捕される事件が起きている。アメリカとの交渉材料として利用するのが目的だ。

さらに3月下旬、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルのエバン・ゲルシュコビッチ記者が、スパイ活動を行ったとして拘束された。米国籍のジャーナリストがロシアで、スパイ容疑で拘束されるのは冷戦終結以来、初めてだ。

ゲルシュコビッチがロシアへ来た年に筆者はロシアを去ったが、誠実な人物で、優れた書き手であることは知っている。ロシア市民の物語に関心を抱く彼は、この国を愛していた。国家の中枢に潜む闇については百も承知でも......。

ゲルシュコビッチは拘束前、危険が増していることを認識していた。そのことは本人のツイートから見て取れる。

それでもロシアにとどまったのは、勇気と使命感が理由だろう。拘束以来、オンラインで目にする「被害者たたき」には、本当にぞっとする。

政治的理由で拘束された体験を持つもう1人の勇敢な記者、ジェイソン・レザイアンは先日、「ロシアの主張を繰り返すこと」は避けるべきだと発言した。そのとおりだ。

米紙ワシントン・ポストのテヘラン支局長だったレザイアンは2014年、イランで拘束された。だからこそ、ロシアの戦略がどれほどイランと共通するか、よく分かっている。ゲルシュコビッチの拘束は長期間に及ぶだろう。有利な取引が実現するまで、ロシアは彼を放さないはずだ。

中国でも事件が相次ぐ

政治的に不安定な状況では、ニュアンスを読み解く必要がある。ゲルシュコビッチの拘束は、ロシアに残る米国民への明らかな警告でもある。

ロシアへの渡航は、ロシア系市民でも(いや、それなら特に)やめるべきだ。これまでも安全ではなかったロシアは、今や地雷原と化している。

世界各地では、アメリカ人の拉致・拘束事件が驚くべき頻度で発生している。ロシアは、その可能性がとりわけ高い国の1つにすぎない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中