台湾新旧リーダーの「外遊合戦」が意味するもの
ニューヨークを訪れた蔡(3月30日) TAIWAN PRESIDENTIAL OFFICEーHANDOUTーREUTERS
<蔡英文が訪米、馬英九は訪中──2人がどのような成果を上げるかは、台湾の未来と米中関係の今後に大きな影響を及ぼす可能性がある>
台湾をめぐる緊張が高まっているなかで、台湾の政界でライバル関係にある2人の要人が同時期に、激しく対立する2つの超大国に向けてそれぞれ出発した。与党・民進党の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統がアメリカに、最大野党・国民党の馬英九(マー・インチウ)前総統が中国に向かったのだ。
蔡の訪米は、中米諸国歴訪の途中での立ち寄りという形を取り、馬の訪中は、墓参りや中台学生交流のためという形を取っている。いずれも「非公式」の訪問だが、2人がどのような成果を上げるかは、台湾の未来と米中関係の今後に大きな影響を及ぼす可能性がある。
蔡がアメリカを訪れるのは、2016年の総統就任以来7回目だが、昨年夏のペロシ米下院議長(当時)の訪台に中国が激しく反発して地域の緊張が高まって以降では今回が初となる。
馬は既に台湾の総統でも国民党の党首でもないが、1949年の中台分断以降、台湾の現職総統もしくは総統経験者が中国本土を訪れるのは、今回が初めてだ。
来年1月の台湾総統選挙と立法委員(国会議員)選挙を前に、蔡と馬は、大きな政治的思惑を持って訪米と訪中に踏み切ったとみられている。
「いずれの場合も、自分たちの党派がアメリカ政府もしくは中国政府から好意的な反応を引き出す力を持っていると、有権者に印象付けたいという意図が見て取れる」と、民間シンクタンク「台湾民意基金会」(台北)のポール・ホワン研究員は本誌に語る。
しかし、蔡も馬も、そうした望みどおりのメッセージを有権者に向けて発信することは難しそうだ。
「蔡がアメリカで行う会談はごくわずか。しかも、その相手は、米政府の地位の低い人物と野党・共和党の党派色の強い政治家だけだ。それでも、(蔡と民進党は)大きな外交上の成果だと強調し、いざというときにアメリカが台湾の防衛にはせ参じるという『証拠』だとアピールするだろう」と、ホワンは言う。
しかし、台湾の有権者が民進党の期待するような受け止め方をするかは疑わしい。「ロシアがウクライナに侵攻し、それに対してアメリカが軍事的に関わろうとしなかったのを目の当たりにして、台湾の人々は、(台湾有事が起きた場合に)アメリカが軍事介入するという確信を持てなくなった」と、ホワンは指摘する。
しかも、中国の人民解放軍の実力は「質と量の両面で台湾の軍を大きく凌駕している」と、ホワンは言う。「台湾の軍と安全保障機関は、全く能力が不十分で、マネジメントとリーダーシップも救いようがないほどひどい」