「究極の政治的裏切り」を先に決断するのは、プーチンかゼレンスキーか?
PEACE REQUIRES BETRAYAL
ウクライナが望む形での戦争終結、つまりロシアの完全な敗北はそう簡単には実現しそうにない。
激戦が続くなかロシアの残虐なやり口はウクライナ人の怒りをかき立て、和平のための妥協を一切許さないムードが醸成されている。この状況で停戦交渉を進めるには相当の覚悟がいる。
結果的にウクライナ戦争は、長引く持久戦で膨大な死者を出した第1次大戦の哀れなレプリカの様相を呈しつつある。
ロシアが劣勢に追い込まれるにつれ、プーチンが核の使用に踏み切り、NATOが直接的に戦争に介入する危険性が高まる。ロシアと戦略的に手を組む中国がこの機に乗じて台湾に侵攻し、破滅的な世界戦争の火ぶたが切られるシナリオすらあり得る。
ウクライナの指導者たちはイラン・イラク戦争の教訓に学ぶべきだ。80年に始まったこの戦争は、イラクの侵攻に疲弊し切ったイランが国連安全保障理事会の停戦決議を受け入れるまで8年間もかかり、100万人超の死者が出た。賢明な決断のおかげで、イラン国民は全滅を免れた。
本人も驚いているだろうが、この1年余りでゼレンスキーは戦争の英雄となった。だが今、彼は耐え難いジレンマに直面している。
戦争を終わらせるには完全な勝利ではなく、不完全な和平に甘んじざるを得ない。遅かれ早かれゼレンスキーか、望むらくはプーチンが究極の政治的裏切りをせざるを得ないだろう。
シュロモ・ベンアミ(歴史家、イスラエル元外相)
SHLOMO BEN-AMI
イスラエル元外相。世界各地の紛争解決を目指す「トレド国際平和センター」副所長。著書に『戦争の痕、平和の傷──イスラエルとアラブの悲劇』がある。