訴訟で負けた直後に「ジャーナリズムの最高基準」と自画自賛で開き直る、米メディアFOX
FOXとの和解合意後、裁判所を出るドミニオンのCEOと弁護団(4月18日) EDUARDO MUNOZ―REUTERS
<大統領選での虚偽報道に関する訴訟で多額の和解金を支払うことについて「裁判所の判断を認める」という太々しいFOX。謝罪を引き出せなかった問題について>
投票集計システム会社ドミニオン・ボーティング・システムズ社は2021年3月、保守系メディア大手FOXニュースの司会者とゲストが20年米大統領選挙における同社の投票機の役割について虚偽の報道を行ったとして、FOXを名誉毀損で訴えた(具体的にはトランプ前大統領にとって不利に、バイデン現大統領に有利なように投票を操作したと報じられた)。
投票機の不正はよくある陰謀論の1つ。トランプが大統領選の敗北を覆そうと嘘を重ねるなかで、右派のケーブルテレビとSNSで蔓延した。
FOXは裁判が始まる前から苦しい立場だった。宣誓証言や電子メールその他の社内資料によれば、FOX上層部は「選挙が盗まれた」という主張が確たる証拠のない大ウソであることを知っていた。
予審判事も公判開始前に、ドミニオンの投票機が不正に操作されたという主張が虚偽であることは明白であり、FOXは単にそれを報道したにすぎないとは言えないとの法的判断を下している。
唯一の現実的な問題は、FOXが「実際に悪意」を持って虚偽の報道を行ったかどうか。
この判断基準は公職者や公人の報道を行うジャーナリストらを保護するために最高裁が設けたもので、報道の発信者が虚偽と知りながら、あるいは真実か虚偽かを無視して発言したことの証明が必要とされている。
最終的にドミニオンは審理入り直前の4月18日、FOXから7億8750万ドルの和解金を受け取ることで合意した。ドミニオンが被った評判の失墜を補って余りある金額だ。
ただし、この和解には謝罪の表明や、FOX視聴者に向けた放映中の事実認定は含まれていない。国民が得られる最大の成果は、FOXが発表した「ドミニオンに関する特定の主張は虚偽であるとする裁判所の判断を認める」という声明の一文だけだ。
しかもFOXはその直後、「ジャーナリズムの最高の基準に責任を負い続けた」自社の姿勢を自画自賛している。この一件により多くを期待していた人は深い失望を表明した。
ジャーナリズム専攻の大学教授でコラムニストのマーガレット・サリバンはツイッターでこう指摘した。
「ドミニオンは謝罪を要求すべきだった。放送中の明白な謝罪を含めFOXから謝罪を引き出せれば、公共の利益になっていたはず」