「南進」を始めた中国の隠せない野心──本格的な海外基地の展開をにらむ...長期戦略をひもとく
INTO THE SOUTH PACIFIC
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<外交攻勢と経済援助で狙うのはシーレーンの要衝>
昨年12月、中国の在バヌアツ大使館はいつになく忙しかった。太平洋のこの小さな島国が、アメリカの同盟国であるオーストラリアと安全保障協定を結んだのだ。
協定が調印された12月13日から3日間、中国の李名剛(リー・ミンカン)大使は首都ポートビラにある壮大な中国大使館など3カ所でイベントを主催。中国が援助やインフラ整備でこの地域に広く関与していることや、アメリカが大使館を置いていないバヌアツと中国が40年にわたり外交関係を築いてきたことを強調した。
中国政府のメッセージは明確だった。中国は長年ここにいて、贈り物を続けているではないか──。
李は14日のイベントで、中国はバヌアツと「戦略的な連携を前進させるために」協力する用意があると語りかけた。大使館によると、この日は政府高官ら約200人が中国の珍味を楽しみ、書道を体験した。
バヌアツのアラトイ・イシュマエル・カルサカウ首相が、オーストラリアとの安全保障協定に署名した翌日に、中国式マッサージを受けている写真が在バヌアツ中国大使館のサイトに掲載された。カルサカウはかつて、前任者と中国の良好な関係を批判していた。
李の奮闘ぶりは、米中の競争が激化している南太平洋地域で、中国が経済的・政治的影響力を追求していることをあらためて物語る。この地域には世界貿易にとって重要なシーレーンがある。グローバルな通信を担う海底ケーブルが横断し、優れた港や飛行場を提供する島々が点在しており、どの国の軍隊にとっても戦略的に重要な地域になり得る。
南太平洋地域の人々の心をつかみ、経済的に優位に立とうとする中国の外交攻勢は、世界各地で影響力を高めようという広範な戦略の一部にすぎない。ただし、そこには将来、中国の軍事拠点になり得るネットワーク構築も含まれている。
アメリカとその同盟国は中国の外交攻勢について、本当の目的は国外に軍事拠点を構えることではないかと懸念している。人民解放軍が全面的に運営する基地を置くか、表向きは外国政府との警備の協定になるかもしれない。経済特区に隣接していて人民解放軍をいつでも受け入れられる港湾施設や滑走路かもしれないし、商業衛星の監視や気象観測所などの軍民共用も考えられる。
こうした施設は、今のところほかのどの国よりもはるかに大規模な国外基地網を擁するアメリカにしかできない。実現すれば、中国が軍事力を誇示するのに役立つだろう。
中国が国外の軍事基地を見据えているという指摘は「誤った非難」で悪意のある臆測だと、昨年6月に中国外務省の趙立堅(チャオ・リーチエン)副報道局長(当時)は反論しているが。