最新記事

北朝鮮

世界最速で「人口崩壊」する韓国...同時に北朝鮮でも急激な少子化が起きていた

2023年3月2日(木)17時07分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載
北朝鮮の子供たち

北朝鮮の子供たち(平壌、2018年9月) Pyeongyang Press Corps/Pool via REUTERS

<日本を上回るペースで少子化が進む韓国についてイーロン・マスクも「世界で最も速い人口崩壊に直面」と語ったが、北朝鮮でも同様の現象が>

韓国統計庁は22日、女性1人が生涯に産む子どもの推定人数である「合計特殊出生率」が2022年に0・78となり、統計を開始した1970年以降で最も低かったと発表した。

経済協力開発機構(OECD)加盟国の2020年時点の平均(1・59)の半分にも満たず、韓国だけが5年連続で1に満たなかった。日本の1・30(21年)も大きく下回り、止まらぬ少子化に社会の危機感が増している。

韓国の人口減少を巡っては、米電気自動車(EV)大手テスラ最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏が昨年5月、ツイッターへの投稿で、「韓国と香港は、世界で最も速い人口崩壊に直面している」と指摘し話題になったことがある。

実は、人口減少に直面しているのは隣の北朝鮮も同様だ。

世界保健機関(WHO)の資料によると、北朝鮮の人口は2021年7月の時点で2566万人。

(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩"残酷ショー"の衝撃場面)

しかし、実際には大幅に水増しされていると疑われている。脱北者で韓国紙・東亜日報の記者であるチュ・ソンハ氏は、独自に入手した北朝鮮の中央統計局の内部資料に基づき、2005年の2100万人を頂点に人口が減少し始め、2015年には2060万人に過ぎないと報じている。

北朝鮮の人口減少のペースが具体的にどれくらいかは不明だ。同国政府は人口減少が国外に知れ渡ると、国力が衰退しつつあることがバレてしまうと懸念し、人口統計を極秘事項としているからだ。人口情報を目にした官僚が、その内容を妻に話したことが発覚し、一家もろとも消されてしまうという出来事もあった。

韓国と北朝鮮、それぞれの少子化の原因は?

韓国では少子化の原因について、仕事と育児を両立しにくい環境(特に女性の負担過多)、教育費の増大、不動産価格の高騰といった問題が指摘されている。韓国政府はこれらを改善しようと、2006年から21年までに約280兆ウォン(約29兆6千億円)の予算を投じたが、いまだ結果を出せていない。

一方の北朝鮮でも、少子化の原因は「生きにくさ」にある。飢餓の恐怖と制裁下の経済難の中で子育てをする苦労は想像を絶する。

また北朝鮮では、男性は職場に出勤することが法的に義務付けられている一方、女性はそうした縛りが少ない。そのため、雀の涙ほどの給料しかもらえない夫に期待せず、妻が市場で商売をして生計を支えるのが一般的だ。そんな状況下、女性の間で「商売をしながら子育てなんかできない」「いっそ結婚しない方がいい」との意識が強まっているとも言われる。

これに対し、金正恩政権は「避妊の禁止」「中絶禁止」などの政策を打ち出しているが、効果が出ているようには見えない。

北朝鮮当局は今、若者を集団で農村や炭鉱に送り込む事業や、兵士を早期除隊させて労働現場に集団配置する政策を進めているが、これは労働力不足が深刻化していることの証左と言えるだろう。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

キヤノン、メディカル事業で1651億円減損 前12

ビジネス

武田薬、ジュリー・キム氏がCEO就任へ 26年6月

ビジネス

仏GDP、第4四半期速報値は前期比-0.1% 五輪

ワールド

今年のタイ成長率予想、3%に据え置き 3.5%に上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 3
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? 専門家たちの見解
  • 4
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 7
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 8
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 9
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 9
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中