最新記事
シリア

シリア北西部への支援を難しくするアル=カーイダの存在......トルコ・シリア地震発生から3週間

2023年3月6日(月)14時40分
青山弘之(東京外国語大学教授)

トルコ占領地でも存在を誇示

さらに、ジャウラーニーは、トルコ占領地でも存在を誇示しようとした。

ジャウラーニーは2月9日、記者会見を開き、トルコ側の道路などが被害を受けているため、同国からの救援物資の搬入はいまだないとしたうえで、越境支援が再開されるまでは「解放区」内の資源やマンパワーによって、被災者の支援、負傷者の治療などを行うと強調した。

そして、次のように述べ、シャーム解放機構が「解放区」だけでなく、トルコ占領下の「オリーブの枝」地域のなかでもっとも地震の被害が大きかったとされるジャンディールス町(アレッポ県)での救援活動に参加していると主張したのである。


民間部門、軍事部門の双方が救援活動にあたっており...、イドリブ県からジャンディールス町に過去12時間の間に車輌35輌以上を派遣した。

この発言は、当初は事実ではないと思われた。だが、その後まもなく、ジャウラーニーが幹部の1人マイサル・ブン・アリー・ジャッブーリー(ハラーリー)氏(通称アブー・マーリヤー・カフターニー)らを伴って、ジャンディールス町を訪れ、被災者の家族らとともに被害状況を視察する様子を捉えた映像がSNSを通じて拡散された。

aoyama20230306e.jpg

ジャンディールス町を視察するジャウラーニー(Telegram (@obaida1s)、2023年2月9日)

トルコの占領を維持したまま軍事・治安権限を掌握

ジャンディールス町の地元評議会のマフムード・ハッファール議長は、反体制系メディアのEnab Baladiの取材に対して、同町が行政上は、トルコを拠点とするシリア革命反体制勢力国民連立(シリア国民連合)傘下の暫定内閣に所属しているとしたうえで、ジャウラーニーの訪問は、メディアを通じて知っただけだと弁明した。だが、シャーム解放機構が2022年10月、シリア国民軍(TFSA:Turkish-backed Free Syrian Army)の内部対立に乗じて、「オリーブの枝」地域に進攻し、中心都市のアフリーン市やジャンディールス町などを制圧、トルコの占領支配を維持したまま、その軍事・治安権限を掌握していたことは、知る人ぞ知る事実である。

なお、ジャウラーニーの記者会見とジャンディールス町訪問に合わせて、シャーム解放機構から「解放区」の自治を委託されているシリア救国内閣のアフマド・アブドゥルマリク経済資源大臣補は、ジャンディールス町のパン製造所のほとんどが地震によって利用不能になったことに対処するため、アティマ村一帯などの通商公社や穀物製造所に対してパンの生産ラインを稼働させ続けるよう指示した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中