この悲しい戦争が教えてくれる5つの教訓
LESSONS FROM YEAR ONE
ロシア軍は首都キーウを空爆しても成果を出せず、甚大な損失を被った。そのときウクライナと西側諸国は、武器支援を拡大して制裁を強化すればロシアを撃退でき、大国の地位も奪えるかもしれないと考えた。
ウクライナは昨夏からの攻勢で、クリミア半島を含む全領土の奪還も夢ではないと希望を新たにした。専門家は、プーチンの失脚もあり得るという見方を示した。
それでも、ロシアが大国であることに変わりはない。人口はウクライナの3倍以上、軍事産業基盤も大規模で、軍備も充実している。
消耗戦になれば不利になるウクライナは、戦車を含む兵器の確保と兵士の訓練に躍起になっている。この春には限定的な勝利を収めるかもしれないが、どれほど援助を受けてもロシアの支配地域全ての奪還は難しいかもしれない。戦況は今後もエスカレートする可能性がある(核兵器使用の可能性も捨て切れない)。
■教訓4 戦争は強硬派を増長させ、妥協を困難にする
大きな代償を伴う戦時こそ、冷静な論理的思考と慎重な計算が重要だ。だが残念ながら多くの場合、戦時は混乱や希望的観測、うわべだけの道徳や愛国的なおごりが横行する。集団的思考が優位になり、強硬派が慎重派の意見をかき消してしまう。
そのため、双方とも勝利への道筋が見えない状況においてさえ、話し合いで妥協点を探るのが困難になる。戦争を終わらせるのが難しい大きな理由の1つが、ここにある。
この戦争をめぐる論調は異常なほど敵意に満ちている。アメリカのタカ派有識者はウクライナ支持を打ち出し、反対意見を「認識が甘い」「ロシア偏重」などと中傷する。
確かに彼らが主張するように、西側諸国はウクライナが全領土をロシアから奪還できるよう「やれることは全てやる」べきなのかもしれない。だが戦争を長引かせる手助けをすることが、ウクライナにとって悪い結末を招く恐れはないのか。ベトナムやイラク、アフガニスタンの例を思い返すと、その可能性がないとは言い切れない。
■教訓5 「抑制戦略」は戦争のリスクを軽減する
最後の、そして最も重要とも言える教訓は、もしアメリカが外交に「抑制的な戦略」を採用していたら、今回の戦争が起きる可能性ははるかに低かっただろうということだ。欧米の政治家が、際限のないNATO拡大が招き得る結末について繰り返された警告に耳を傾けていたら、ロシアはウクライナ侵攻に踏み切らなかったかもしれない。
もちろん、残虐で違法な戦争を起こした一番の責任はプーチンにある。しかし西側諸国の尊大さも、ウクライナ国民を苦しめている。