最新記事

軍事力

「軍事力増強」日韓はどこへ

EAST ASIA ARMING UP

2023年2月17日(金)16時30分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

その結果、日本は「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境のただ中に」あり、「自分の国は自分で守り抜ける防衛力を持つ」ことが安全保障外交を支えると主張している。さらに、基本的な原則の1つとして、「拡大抑止の提供を含む日米同盟は、我が国の安全保障政策の基軸であり続ける」ことを挙げている。

ただ、日本はアメリカの核抑止力に依存しているにもかかわらず、自らの核兵器保有は明確に否定している。第2次大戦で核爆弾の攻撃を受けた唯一の国である歴史を考えれば、断固たる態度になるだろう。

一方、韓国にとって、核の誘惑に対するブレーキはそこまで固くはない。昨年5月に就任した尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領は、北朝鮮との緊張緩和という前任者の希望を捨てただけでなく、今年1月末には、北からの核ミサイル攻撃を阻止するために核兵器保有の可能性に言及した。

アメリカなどの反応を受けて尹は発言を後退させたが、国内に賛同者はいる。昨秋にはソウルの有力シンクタンク、世宗研究所のアナリストを中心に数十人の科学者と実務家が「韓国核戦略フォーラム」を結成し、韓国独自の核武装の必要性を主張している。

その背景として、中国と北朝鮮が軍事力を増強していることだけでなく、韓国が攻撃されたらアメリカは本当に戦ってくれるのかという懸念の高まりがある。

「アメリカに見捨てられるかもしれないという不安を、日本と韓国はずっと抱えている」と、スナイダーは言う。米下院の一部の孤立主義者と、在韓米軍の完全撤退を考えていたドナルド・トランプ前米大統領が復活する可能性は、これまで以上に無防備さを痛感させられる。

2国とも安全保障をアメリカに完全に依存しており、日本はアメリカの庇護にさらに寄りかかるしかないだろう。韓国も同じだが、必要になれば単独で行動するつもりがあると公言するようにもなった。

中国は圧力をかけ続けるのか

このように自己主張を強める日韓の政策が安全保障に及ぼす影響は、まだ分からない。ロシアはアメリカに敵意をむき出しにしているが、ロシアの軍隊は目下、アジア側の国境に真の脅威を与えるには忙しすぎる。

習近平(シー・チンピン)国家主席がアジア全域で圧力を強めることは想像に難くないが、一方で、中国は事態を沈静化させる道を探っているとも考えられる。少なくとも米中の高官は両方の道を模索している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者、今週訪米へ 米特使と会

ビジネス

欧州株ETFへの資金流入、過去最高 不透明感強まる

ワールド

カナダ製造業PMI、3月は1年3カ月ぶり低水準 貿

ワールド

米、LNG輸出巡る規則撤廃 前政権の「認可後7年以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中