国家転覆を狙う「加速主義者」の標的は「電力インフラ」──未解決事件が相次ぐアメリカ
PROTECTING THE GRID
JONATHAN DAVIDSON/GETTY IMAGES
<大規模停電を引き起こす極右の攻撃が市民生活を大混乱に陥れ、多くの人命を奪う悪夢。SF映画ではなく、すでに現実に>
私たちは普段、電力網のことなど考えもしないが、いったん止まれば大変なことになる。もっとも、たいがいは不便に耐えれば済む程度。明かりが消え、インターネットが使えず、スマートフォンを充電できない。
だがそれが何日、何週間、何カ月も続いたらどうか。しかも近隣一帯や郡レベルにとどまらず、国全体のかなりの部分に及んだら?
不便どころの騒ぎではなくなると専門家は言う。飲み水もない、車の給油もできない、家の暖房もなし。給与の引き出しもできず、クレジットカードも使えず、救急車も呼べない。
輸送トラックも給油できなくなるから、食料や医薬品など必需品も不足する。そうなれば日々の活動はほぼ全面的にストップし、何百万人もの犠牲者が出るだろう。
SFスリラーの筋書き? いや、現実の話だ。アメリカで長期にわたる大規模停電が起きる確率はかつてなく高まっており、近い将来に低下する兆しは見えないと、セキュリティーの専門家は警告している。
米政府監査院(GAO)によると、2022年1~8月にアメリカの電力網が攻撃される事件はここ10年余りで最多の107件も発生した。
12月3日にはノースカロライナ州ムーア郡の2カ所の変電所に何者かが侵入し銃で設備を破壊、一帯の停電で4万世帯以上が寒さに震えながら暗い夜を過ごした。その後も同様の事件が相次ぎ、ワシントン州ピアース郡では4カ所の変電所の設備が破壊され、1万4000人前後が停電下でクリスマスを迎えた。
こうした攻撃の多くは国内の過激派の犯行とみられている。ここ数カ月、変圧器や送電線を標的にしたテロが過激派の間で話題になっている。