最新記事

資源

少女は赤ん坊を背負いながらコバルトを掘る──クリーンエネルギーの不都合な真実

CLEAN ENERGY’S DIRTY SECRET

2023年2月8日(水)12時49分
シダース・カラ(イギリス学士院グローバル・プロフェッサー)
コバルト鉱山

コバルトを掘りに穴に入る地元の男性。命懸けの労働だが稼ぎはわずかだ(カワマで2016年に撮影) MICHAEL ROBINSON CHAVEZーTHE WASHINGTON POST/GETTY IMAGES

<スマホ、PC、電気自動車などの充電池に欠かせないコバルト。性暴力と貧困の悪循環を生むシステムに支えられながら、先進国は争奪戦を繰り広げている>

コンゴ民主共和国の南東部に位置する都市コルウェジからザンビア北部に至る「コッパーベルト」は、世界の銅の埋蔵量の約10%、コバルトの埋蔵量の約半分を擁する鉱山地帯だ。

コバルトはスマートフォンやノートパソコン、電気自動車に搭載されている充電池に欠かせない素材で、EUでは「不可欠」な、アメリカでは「戦略的」な物資と位置付けられている。

電気自動車のバッテリーでは、1台につき精製されたコバルトが多いと約10キロも使われる。これはスマホのバッテリーで使われる量の1200倍以上だ。さらにコバルトは、タービンや歯科治療に使われる合金の材料になるほか、化学療法やミサイル誘導システムなどにも使われる。

コバルトの需要は2050年までに5倍近く増加するとみられているが、それを支えられる資源はコンゴにしかない。コンゴのコバルト生産は、国の認可を得た機械化された鉱山だけでなく、手掘りで採掘業に携わる何十万人もの人々が担っている。

手掘りでコバルトの鉱石を採掘している人々の多くは国の認可を得た鉱山以外の採掘地で働いており、事故防止のためのルールもない。男性も女性も子供も厳しい労働条件の下で働き、収入は非常に少ない。ここでは、手掘りの採掘人たちの実情に迫ったシダース・カラの新著『コバルト・レッド』(セイント・マーティンズ・プレス刊)からの抜粋をお届けする。

◇ ◇ ◇


コンゴ南部の町キプシで手掘りのコバルト採掘が行われているのは、国営企業ジェカミンの採掘場跡地のすぐ南にある、月面を思わせるだだっ広い荒れ地だ。

すぐ隣にあるキプシ社(KICO)の近代的な採掘施設では先進国と同じような機器や掘削技術、安全対策が取り入れられているが、こちらのエリアは数世紀前にタイムスリップしたかのようだ。

ここでは地元住民が原始的な道具を使って地面を掘り返している。焼け付く日差しと土ぼこりの中で、3000人を超す女性や子供、そして男性がそこら中で土を掘り、削り、かき集めている。大地を1回掘り返すたび、土ぼこりが亡霊のように舞い上がり、労働者たちの肺に入り込んでいく。

周辺を歩いていると、ガイドのフィリップが手を伸ばし、こぶしの2倍くらいある石を1つ渡してよこした。「ムバジ」だと彼は言った。コバルトを含む鉱物、ヘテロゲン鉱だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英サービスPMI4月改定値、約1年ぶり高水準 成長

ワールド

ノルウェー中銀、金利据え置き 引き締め長期化の可能

ワールド

トルコCPI、4月は前年比+69.8% 22年以来

ビジネス

ドル/円、一時152.75円 週初から3%超の円高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中