ウクライナ戦争を二元論で語る「自由世界」にいる、自由ではない人々
WHO IS PART OF THE FREE WORLD?
センの母国であるインドは、ウクライナ戦争でロシアとNATOのどちらにつくことも拒否してきた。クアッド(日米豪印戦略対話)を通じて日米豪に近づきつつも、ロシアからの石油輸入を増やし、今やインドにとってロシアは最大の石油輸入元国だ。
インドのジャイシャンカル外相が駐米大使だった頃、インドは「東か西のどちらかを選択しなければならない」という問いに「われわれは既に選択したのだ。インドという選択を」という答えを返してきたと、ペトレアス元米軍司令官は語っている。
ジャイシャンカルから見れば、ウクライナ戦争はさらに多くの国々が「自国」を選択する契機になるかもしれない。彼は、ウクライナ戦争は「西側に偏った」今の世界秩序を変革すると予測する。
現状では「ヨーロッパの問題は世界の問題、一方で世界の問題がすなわちヨーロッパの問題とはならない」。それが、各国が自国の「優先事項と国益」を自由に追求できる「多極的な同盟」世界に変わっていくというのだ。
昨年4月、国連総会でロシアの人権理事会の理事国としての資格停止に賛成票を投じなかった国はインドだけではない。こうした国々は、西側の対ロシア制裁は食糧と燃料価格の高騰を招き自国に深刻な危機をもたらしているとして、ロシアのウクライナ侵攻と同じくらい批判している。
今年の一般教書演説でバイデンが真の「世界」に向けて語りかけたいなら、従来の「自由世界」の定義を捨て、多様な自由を内包した世界を想定すべきだろう。
ANNE-MARIE SLAUGHTER
国際政治学者、シンクタンク「ニュー・アメリカ」CEO。米プリンストン大学名誉教授。著書『仕事と家庭は両立できない?』は全米で論争を呼び起こした。