最新記事

イギリス

「EU離脱を後悔」──人手不足、光熱費1000%上昇...止まらない英国の衰退

A Broken Britain

2023年2月13日(月)08時06分
リズ・クックマン(ジャーナリスト)

光熱費が1000%上昇

だが、ブレグジットで出稼ぎ労働者が激減したことにより、イギリスでは33万もの人手不足が起きている。そのほとんどが運輸業、倉庫業、接客業、小売業の仕事だ。イギリス社会に欠かせないパブもピンチに陥っている。

低価格で人気のパブチェーン「ウェザースプーン」の創業者であるティム・マーティンは、16年にEU離脱を猛烈に訴えた有名人の1人だった。だが、32店舗もの閉店に追い込まれた今は、EUからの出稼ぎ労働者を増やすよう政府に働きかけている。もはや皮肉を通り越して、茶番だ。

伝統的に保守党が強いペンリスでも、16年は離脱支持が53%に達した。そして今、商店や企業の88%が人手不足に陥っている。イギリス人は接客業に就きたがらないからねと、あるバーの店員は語った。ずいぶん前から、こうした低賃金の長時間労働は、出稼ぎ労働者が担っていたのだ。

人手不足に苦しむ店に、燃料費の高騰が追い打ちをかけた。ペンリスにあるメキシコ料理店は昨秋、光熱費が1000%上昇するという見積もりを事業者から受け取った。

過去10年近く国外で仕事をしてきた筆者にとって、母国の衰退ぶりは衝撃的だ。本稿も、カーディガンを重ね着し、毛布にくるまりながら書いている。なにしろ自宅の暖房を数時間入れただけで、10ポンド(約1580円)もするのだ。

物価は高騰しているのに、賃金はほとんど上がらないことに抗議して、鉄道から郵便局、国民保健サービス(NHS)までが代わる代わるストライキをしている。このため救急病棟でさえ、待ち時間が12時間を超えることもある。

交通機関の運賃が大幅に引き上げられたため、ペンリスからバスで40分ほどの大きな町ケズウィックまで買い物に行こうにも、往復24ポンド(約3800円)もかかる。ちなみにイギリスの最低賃金は、1時間10ポンド程度だ。

イギリスを破綻させたのはブレグジットだけではない。だが、過去100年で最悪の生活水準の低下とされるものを目の当たりにすると、ブレグジットが不要だったことは明らかだ。

長期的な影響はさておき、人々は今、より貧しく、より惨めになり、イギリスは世界から孤立している。最悪なのは、イギリスがそれを自ら招いたことだ。

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ノルウェーGDP、第3四半期は前期比+0.5% 予

ビジネス

日産、タイ従業員1000人を削減・配置転換 生産集

ビジネス

ビットコインが10万ドルに迫る、トランプ次期米政権

ビジネス

シタデル創業者グリフィン氏、少数株売却に前向き I
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中