中国デモを世界に発信する「猫アイコン」──イタリア在住の若き中国人「李老師」の使命感
WE ARE ALL TEACHER LI
李にとってもう1つ印象深かったのは、上海で「不要核酸(PCR検査は要らない)」の横断幕を掲げて大声を上げる人々の動画だった。「彼らの勇気に胸を打たれた。中国には、警察に尋問されることを意味する『お茶に呼ばれる』という表現がある。好まれざる言葉を検索エンジンに打ち込むだけで、警察からお茶に呼ばれる。それなのに、デモ参加者はそんなことは気にせずに叫び続けていた」
「李老师不是你老师(李先生はあなたの先生ではない)」のアカウント名で活動する李のツイッターは今や、中国の抗議運動に関する世界一重要な情報チャンネルだ。
李が政治に深く関わるとは、誰一人(本人さえ)思ってもいなかった。ましてや、わずか数分間外出することも、故郷に帰る日を想像することも難しくなるとは想定外だった。
中国東部で生まれた李は経済的に恵まれた家庭で育ったが、周囲に貧しい地域が多く、貧困にあえぐ人々を間近に見ていた。そのため子供時代から社会の不合理に怒りを感じ、その原因に考えを巡らせていた。
国民党の軍医としてビルマ(現ミャンマー)に派遣された祖父は、文化大革命で迫害を受けた。李の両親は芸術の道に進み、政治とは距離を置こうとしていた。
だが今では、李の家族は常に中国の治安当局の監視下に置かれている。当局は李の活動の背後にいる国際的な勢力について探り、彼を止めようとしているが、うまくいっていない。
元美術教師の李は、中国の人々の声が検閲されている現状に責任を感じ、中国で暮らす家族に二度と会えないかもしれないと覚悟している。
彼の活動は、個人が中心にいたインターネット黎明期を彷彿させる。15年以上前のブログ全盛の時代には市民ジャーナリストがもてはやされたが、その後、人々を楽しませるソーシャルメディアに取って代わられた。「自分の安全以上に心配なのは、このアカウントの安全だ。このアカウントは世界中の中国人にとって大きな意味を持つから」と、李はワシントン・ポスト紙に語っている。
ゼロコロナ政策からの急転換について李は「中国は過激で無責任極まりない開放政策を実施し、政府の問題を社会に丸投げした」と語る。「葬儀場や過密状態の病院の映像が多数出回っているのはそのためだ」
中国の検索エンジンでコロナに関わる暴動の情報を探そうとしても、何も表示されない。李の使命は、自分の声を犠牲にしてでも同胞の声を世界に届けることだ。
確かに、李はあなたの先生ではない。だが、私たちは皆「李先生」になれるのだ。