中国デモを世界に発信する「猫アイコン」──イタリア在住の若き中国人「李老師」の使命感
WE ARE ALL TEACHER LI
李の元には多くの中国人から抗議デモの実態などの情報が寄せられる ALBERTO BERNASCONI
<イタリア在住の若き中国人「李老師」が検閲の目をかいくぐり、同胞の生の声をツイッターで拡散し続ける理由>
筆者が北イタリアに暮らす「李老師(李先生)」を訪ねたのは、昨年12月のどんより曇ったある日の午後だった。彼の自宅は、世界中から注目を集め中国政府の厳しい検閲にさらされているとは思えない、普通のアパートだった。
玄関で筆者を出迎えたのは1人の若者と、ネット上で彼のアイコンとして有名になった4匹の猫。遠く離れたイタリアから母国の反体制運動に思いがけず参加することになった李にとって、この猫たちは抗議活動の象徴であり、慰めでもある。
李はこの部屋で多くのメッセージを受け取り、自分がいなければ検閲で永久に失われていたであろう動画やスクリーンショット、証言を発信している。
2015年、芸術を学ぶためイタリアにやって来た李は、中国版ツイッター「新浪微博(シンランウェイボー)」で風刺画の投稿を始めた。程なくして扱うテーマは社会問題やジャーナリスティックな内容に変化していき、中国国内の実情を世界に伝えてほしいと願う人々から情報が寄せられるようになった。
多くの協力者が微博の新規アカウント設定に必要な電話番号を提供してくれたが、李の54の微博アカウントは次々に検閲され、削除された。なかには10分ほどで消されたものもあった。ある意味芸術的だと、李は思った。
22年春に活動の場をツイッターに移さざるを得なくなったが、11月には中国でゼロコロナ政策をめぐる抗議運動が激化。11月26日、李はA4の白い紙を無言で掲げるデモ参加者の写真を初めてツイートした。
微博に見切りをつけてツイッターの世界に飛び込んだ李にとって、両者の違いは非常に興味深いものだった。微博では社会問題や政府の問題について語らない限り、人種差別や中傷、LGBTQへの攻撃、個人情報の暴露は許容されていた。
一方、ツイッターは正反対だ。個人攻撃や人種差別的な投稿、道徳に反する内容は許されないが、政府や自国の指導者、社会問題について議論することには何の問題もない。
デモ隊の勇気に胸を打たれた
以来、彼は検閲によって表に出てこない抗議運動の生の声を伝えるために日夜、献身的に活動し、多くのフォロワーから届くメッセージを発信していった。フォロワー数は今や90万人を超える。
「最も印象深いのは、中国中部の河南省鄭州市にあるiPhone製造工場の中継動画だ。警察が踏み込んだ際に、工場内の誰かが動画の撮影を始めた。通常、ライブ映像は軽薄な娯楽コンテンツが多いので、とても驚いた」と、李は語る。「何カ月間にもわたって何千もの映像を見続けていた私にとっても、現場の様子を生で見るのは衝撃的だった」