最新記事

インタビュー

太田光が「統一教会信者にも言葉が届けばいい」と語る理由

2022年12月13日(火)17時09分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

038(web).jpg

HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

戦前の日本のテロリズムは、1921年の朝日平吾による大富豪・安田善次郎の暗殺から連鎖した。朝日は強い疎外感を抱いた若者だった。「幼児から極めて薄幸」だったと自己を語り、母との死別、継母との確執から社会と人間への不信感を強めていく。彼は不平等を呪い、幸福に生きたいと願った。

そんな朝日に社会は同情し、原敬暗殺事件のような模倣犯が生まれ、テロが連続していった。暴力の連鎖は萎縮を生む。暴力の連鎖は今でも起こり得る。無論、言論の世界に生きる人々は襲撃の対象だ。

言葉を諦めれば、暴力は連鎖する

太田:今の日本では連鎖しないなんて言われたこともあるけど、実際に俺の家に卵を投げ付けた奴がいるじゃないか。言葉を諦めて、暴力に訴える人は今の状況をよく見ているよ。

山上容疑者も言葉を諦めている。残酷な環境に育っていたことは分かるし、言葉を諦めざるを得ない世の中が悪かったのだ、という反論はあるだろう。しかしそれこそが「言ってもわからないから殴ったのだ」という暴力を振るった人が必ず口にする主張だ。言葉を諦めるという判断をしたのは自分自身だ。世の中のせいではなく、やっぱり自分の責任だよ。成人である以上、自分の行為は自分で責任を取るというのが法の基本じゃないのって思うよね。

(被害の救済に取り組む)全国霊感商法弁護士連絡会の弁護士たちも、旧統一教会問題を政治家やメディアに言葉で届けようとしてきた。言葉を諦めていない人たちはいるじゃないか。強調しなければいけないのは、ここだよ。

太田に対する批判がさらに過熱したのは、「拉致」という言葉を使ったことにあった。カルト宗教の脱会支援活動に携わる者たちは信者の「保護、説得」という言葉を使い、旧統一教会側は脱会支援者は、信者を「拉致、監禁」しているという言葉で批判してきた歴史がある。太田は「拉致」という言葉を使ってしまった理由に、山上容疑者が最後の最後に手紙を送ったジャーナリスト、米本和広の著作を読んだことがある、と語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中