ゼロコロナ政策で分断進む中国世論 規制緩和にも懸念根強く
例えば、河北省石家荘市では先月、当局が無料の新型コロナ検査場の閉鎖を決めたが、住民が感染爆発のリスクがあると不満を訴えたため、撤回を余儀なくされた。
米ブラウン大学の研究者がソーシャルメディアのデータと上海市の住民にインタビューし、8月に公表した研究結果では、ゼロコロナ政策が中国で強い支持を得ていることが分かった。人々は、コロナ対策が緩い国々の「陰惨な光景」を目にして、規則を順守しているという。
上海の会社員ワン・ジアンさん(32)は「私は海外に暮らした経験があり、中国の管理方法は海外よりずっと良いと感じている。このウィルスへの対処法は色々ある。中国は自国の状況を踏まえて対処を決めたまでであり、数字を見る限り、これで大丈夫だと思う」と語った。
ワクチンと医療体制
医療専門家の間でも、ゼロコロナ政策への賛否は分かれている。
上海市の新型コロナ対策専門家チームを率いるジャン・ウェンホン氏は先月、オミクロン変異株になって毒性が弱まっただけでなく、全体的にはワクチン接種率が高いため、ついにゼロコロナ政策から「抜け出す」道が開けるかもしれない、と述べた。
中国の初期の新型コロナ対策立案に関わった専門家ジョン・ナンシャン氏も、オミクロン株の致死率は比較的低く、「国民はあまり心配し過ぎる必要はない」と語った。
しかし、広西チワン族自治区の疾病管理センター長、ジョウ・ジャトン氏は先月公表した論文で、中国本土が今年の香港と同様に制限を緩和していた場合、感染者数は2億3300万人を超え、200万人余りが死亡していたとの悲観的な推計を示した。
ブラウン大学の研究に携わったキャサリン・メーソン氏は、中国はゼロコロナ政策を廃止する前に、ワクチン接種の強化や医療受け入れ態勢の拡大など、準備が必要だと指摘した。
復旦大学(上海)公衆衛生大学院が昨年公表した論文によると、2021年時点で中国は人口10万人当たりの集中治療室(ICU)の病床数がわずか4.37床だった。米国は15年時点で34.2床だ。
また、中国の疾病予防管理センター(CDC)のデータによると、60歳以上のワクチン接種率は、2回接種が11月時点で86.4%、3回以上の接種が68.2%にとどまっている。米国の60歳以上はこの数字がそれぞれ92%と70%、ドイツは91%と85.9%、日本は92%と90%だ。
コロナは猛虎か、張り子の虎か
ニュースアプリ「今日頭条」には最近、「かつて、このウィルスは猛虎のようだったが、今では張り子の虎だ」という投稿があった。ロックダウンを支持しているのは年金生活者か、働かなくても生活できる人々だけだと主張している。
だが、ロックダウンへの抗議デモが正しい解決策だと、だれもが思っているわけではない。
食品業界で働くアダム・ヤンさん(26)は「頭を使わずにこうした手段に訴える必要はない。こうした行動は公序を乱す」と語る。「新型コロナの状況は非常に複雑で、次々と新しい問題が持ち上がる。政府を信じ、各々が最善を尽くすのが一番良いと思う」と続けた。
(David Stanway記者)