最新記事

中国

ゼロコロナ政策で分断進む中国世論 規制緩和にも懸念根強く

2022年12月6日(火)10時36分

例えば、河北省石家荘市では先月、当局が無料の新型コロナ検査場の閉鎖を決めたが、住民が感染爆発のリスクがあると不満を訴えたため、撤回を余儀なくされた。

米ブラウン大学の研究者がソーシャルメディアのデータと上海市の住民にインタビューし、8月に公表した研究結果では、ゼロコロナ政策が中国で強い支持を得ていることが分かった。人々は、コロナ対策が緩い国々の「陰惨な光景」を目にして、規則を順守しているという。

上海の会社員ワン・ジアンさん(32)は「私は海外に暮らした経験があり、中国の管理方法は海外よりずっと良いと感じている。このウィルスへの対処法は色々ある。中国は自国の状況を踏まえて対処を決めたまでであり、数字を見る限り、これで大丈夫だと思う」と語った。

ワクチンと医療体制

医療専門家の間でも、ゼロコロナ政策への賛否は分かれている。

上海市の新型コロナ対策専門家チームを率いるジャン・ウェンホン氏は先月、オミクロン変異株になって毒性が弱まっただけでなく、全体的にはワクチン接種率が高いため、ついにゼロコロナ政策から「抜け出す」道が開けるかもしれない、と述べた。

中国の初期の新型コロナ対策立案に関わった専門家ジョン・ナンシャン氏も、オミクロン株の致死率は比較的低く、「国民はあまり心配し過ぎる必要はない」と語った。

しかし、広西チワン族自治区の疾病管理センター長、ジョウ・ジャトン氏は先月公表した論文で、中国本土が今年の香港と同様に制限を緩和していた場合、感染者数は2億3300万人を超え、200万人余りが死亡していたとの悲観的な推計を示した。

ブラウン大学の研究に携わったキャサリン・メーソン氏は、中国はゼロコロナ政策を廃止する前に、ワクチン接種の強化や医療受け入れ態勢の拡大など、準備が必要だと指摘した。

復旦大学(上海)公衆衛生大学院が昨年公表した論文によると、2021年時点で中国は人口10万人当たりの集中治療室(ICU)の病床数がわずか4.37床だった。米国は15年時点で34.2床だ。

また、中国の疾病予防管理センター(CDC)のデータによると、60歳以上のワクチン接種率は、2回接種が11月時点で86.4%、3回以上の接種が68.2%にとどまっている。米国の60歳以上はこの数字がそれぞれ92%と70%、ドイツは91%と85.9%、日本は92%と90%だ。

コロナは猛虎か、張り子の虎か

ニュースアプリ「今日頭条」には最近、「かつて、このウィルスは猛虎のようだったが、今では張り子の虎だ」という投稿があった。ロックダウンを支持しているのは年金生活者か、働かなくても生活できる人々だけだと主張している。

だが、ロックダウンへの抗議デモが正しい解決策だと、だれもが思っているわけではない。

食品業界で働くアダム・ヤンさん(26)は「頭を使わずにこうした手段に訴える必要はない。こうした行動は公序を乱す」と語る。「新型コロナの状況は非常に複雑で、次々と新しい問題が持ち上がる。政府を信じ、各々が最善を尽くすのが一番良いと思う」と続けた。

(David Stanway記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国碧桂園、清算審理が延期 香港裁判所で来月11日

ワールド

米声優、AI企業を提訴 声を無断使用か

ワールド

フィリピン中銀、タカ派スタンス弱めればペソに下押し

ビジネス

適正な為替レート、「110─120円台」が半数=帝
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中