最新記事

事故

「ISS史上最も深刻な事故のひとつ」ソユーズ冷却水漏れ、フライトコンピュータに影響のおそれ

2022年12月23日(金)15時18分
青葉やまと

フライト・コンピューターは、ソユーズがカザフスタンの着陸地域内に帰還できるよう、再突入の軌道を正確に計算するために使用されている。仮にこのコンピューターが動作不良に陥る危険性があると判断されれば、現在ISSにドッキング中のソユーズによって宇宙飛行士を帰還させることはリスクとなる。

手動で計算をおこなう方法も残されてはいるが、着陸予測エリアが広くなるおそれがある。着陸後のクルーたちの回収に手間取ることが予想され、最適解ではないと同記事は指摘する。コンピュータの温度の推移次第では、予定を繰り上げて一部の宇宙飛行士を早期に帰還させるなど、何らかの対応が求められる可能性もあるという。

一時は「室温50度」の誤報も ロシア当局は否定

事故後は一部、誤報も出回った。冷却に問題が生じたことから、ソユーズの船内温度が50度にまで上昇したとの情報が「関係筋」の話として一部で報じられた。

ロシアのタス通信によると、ロスコスモスは16日、これを否定した。居住区画の温度を測定したところ、通常よりは上昇が見られたが、約30度であったという。ロスコスモスは「些細な変化だ」と強調している。同社はまた次のように述べ、安全性を強調した。

「現時点で温度変化は、機材の使用やクルーの快適性にとって致命的なものではない」

「状況は許容範囲内であり、宇宙飛行士たちの生命や健康に対する脅威とはなっていない。ソユーズ宇宙船MS-22の居住区画に求められる温度は、ISSのロシアセグメントのリソースによって維持されている」

ソユーズ不調なら、クルーの輸送はバックアップなしの単機体制に

事故の影響を受け、NASAは12月21日、幹部職員らが電話会議を通じて対応を協議すると発表している。

一方、ISSの現場では、事故前から計画されていた船外活動を予定通り実施する。NASAの宇宙飛行士2名が船外にて、ロールアウト式太陽電池アレイ増設のための活動に当たる。船内では、米先住民族として初めて宇宙へ飛び立ったNASAのニコール・マン宇宙飛行士と、日本のJAXAの若田光一宇宙飛行士が共同でロボットアームを操作し、船外の飛行士らをサポートする。

宇宙ポータルのスペース.comによると、ロスコスモスは現在、冷却水を失ったソユーズがミッションに耐え得るかを評価している。

飛行に耐えないと判断された場合に懸念されるのが、クルーの輸送体制だ。同記事は、「このソユーズは、SpaceXの『クルー・ドラゴン』カプセル型宇宙船と並び、ISSへ宇宙飛行士たちを輸送しているわずか2台の宇宙船の1つである」と指摘している。

ソユーズが使用不可と判断されれば、2023年4月にボーイング社の「スターライナー」カプセル型宇宙船が加わるまで、クルー・ドラゴン1機体制での運用となる。

輸送機はクルーの生命線でもあるだけに、今後の動向が注視される。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中