最新記事

事件

現金3400万円残し孤独死した右手に指のない女 40年住んだ町で住民登録がない謎すぎるその正体は...

2022年12月22日(木)11時45分
武田惇志(共同通信社記者)、 伊藤亜衣(共同通信社記者) *PRESIDENT Onlineからの転載

40年住み続けた場所なのに、知人はいなかった

錦江荘からほど近くに、飲食店や日用品店、銭湯などが建ち並ぶ杭瀬(くいせ)商店街があり、出口には県道を挟んで市場がある。この一帯は、女性にとってもっとも身近な生活圏だったと考えるのが自然だろう。

探偵は、遺品のアルバムにあった本人の写真を痩せさせ、年齢相応にシワを増やした合成写真を作成し、大家に見せて生前の女性に似ているという確証を得たうえで、写真を使って地域を聞き込みして回った。

女性は同じアパートに40年近く住み続けていたわけで、行きつけの店や顔なじみが少しぐらいあると期待するのが普通だが、そうした例は1件も出てこなかったという。唯一、居酒屋の常連客が「3年前、近くの長洲公園でよく見かけた」と曖昧な証言をしただけで、公園周辺を聞き込みしても裏取りはできなかったようだ。

なお、遺品には商店街の美容室のショップカードが1枚残されていた。店側は、女性が一度飛び込みで来た覚えはあるものの、「当店は要予約です」と伝えたらそのまま立ち去ったという。女性は何を思って突然、美容室へ赴いたのだろう。それまで、そしてそれからはどこで髪を切っていたのか。または散髪目的だけでなく、急に誰かと話したくなったのか。彼女が美容室を諦めて去って行く姿を想像すると、どことなく胸が痛んだ。

さらに謎に包まれた「タナカリュウジ」

女性の生活歴に関しては、尼崎駅前の眼鏡店などでのレシートが数枚見つかっているものの、日付は1980〜90年代で、なぜか近年のものはほとんどなかった。唯一、新しかったのは2015年12月9日、駅前の家電量販店「エディオン」でシャープ製のカラーテレビを購入した明細で、名前は「タナカリュウジ」となっている。

また、エディオンや眼鏡店からのはがきや、ガスや電気の請求書の類もいくつかあった。ほとんどの宛名は「田中千津子」となっていたが、「タナカチズコ」「タナカリュウジ」に加え、「田中竜二」と記されたものもあった。エディオンの宛名や産経新聞の購読申込書は「田中竜二」名である。一方、自筆したと思われる賃貸借契約書の名前は「田中竜次」だ。もし夫婦だとしたら、音が同じとはいえ夫の名の漢字を間違えることなどあるのだろうか。

探偵は購入履歴のあった駅前の眼鏡店にも足を運んだが、会員番号から2009年10月が最後の来店だとわかった程度だったという。

星形のマークがついたロケットペンダント

他に、何らかの手がかりになる可能性があるとして、太田弁護士が保管していた遺品には次のものがある。

・星形のマークがついたロケットペンダント
・「田中」の印鑑1つと「沖宗」の印鑑2つ
・八坂神社(京都市)のキーホルダー
・阪神タイガースのロゴのキーホルダー
・「たなか たんくん」と書かれたキーホルダー
・セイコーの腕時計
・ビニール袋に包まれた韓国1000ウォン札
・米1セント硬貨
・ゆうちょ銀行と三井住友銀行の通帳
・茶色い装幀のアルバム
・アルバムに入っていない写真が約30枚

ロケットペンダントは、開くと小さな紙が入っており、「141391 13487」と端正な字で書かれていた。北朝鮮とのつながりが連想されるきっかけとなった品である。

沖宗の印鑑のうち、1つは高級そうな革のケースに入っており、それほど使用していないのかきれいで真新しい。

星形のマークのついたロケットペンダント

星形のマークのついたロケットペンダント。蓋の部分を開けると、内部には「141391 13487」と数字が記入されている(出所=『ある行旅死亡人の物語』)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエル、ハマスが人質リスト公開するまで停戦開始

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中