イングランドに喫した「大敗」を、イラン国民が大喜び...何が起きているのか
Iranians Celebrate England Thrashing Their Team at World Cup, Video Shows
イングランド戦前の国歌斉唱中のイラン代表(11月21日) Marko Djurica-Reuters
<純粋にサッカーを楽しみ、自国の代表チームを応援できる状況ではない現在のイラン。自国の敗北を喜ぶ複雑な心境とは?>
イラン代表チームが蹴散らされる姿に、イランの市民が歓喜した。11月21日、ワールドカップ(W杯)カタール大会1次リーグの初戦で、イランはイングランドと対戦。ドーハのハリファ国際スタジアムで行われた試合で、イングランドが試合を決定づける3点目のゴールを決めた瞬間、イランの首都テヘランのシャハラン地区で人々が歓声を挙げる様子が動画に収められた。
■【動画】イングランドのゴールの瞬間、歓声が上がったテヘランの町
ロンドンを拠点とするペルシャ語放送局、イラン・インターナショナルが、この時の様子を映した動画をツイッターに投稿した。この試合では結局、イングランドがさらに3得点を挙げ、6対2でイランに圧勝している。
なぜテヘラン市民たちは、自国の代表チームの敗北を喜んだのか。それは、代表チームがW杯で戦う一方で、イラン国内で続いている女性たちを中心とする激しい抗議デモが関係している。
今回のデモのきっかけは、22歳の女性マフサ・アミニの死だ。アミニは今年9月13日、頭髪を適切に覆っていないなどの理由でイランの道徳警察に拘束され、3日後に死亡した。
この出来事に抗議するデモが拡大すると、当局は厳しい取り締まりを開始。人権擁護団体「イランの人権活動家」によれば、治安部隊による暴力的な取り締まりで、抗議デモの死者数は既に少なくとも419人に上っている。
さらにデモ開始以来、イラン国内でのサッカー試合は当局の決定によって、全て非公開になっている。
代表チームは国民より政権寄り?
W杯の対イングランド戦の会場では、抗議デモのスローガンである「女性、生命、自由」という文字や弾圧の犠牲になったデモ参加者の名前を記したTシャツを身に着けたり、プラカードを掲げるイランサポーターの姿が見られた。
ただそうした中で、代表チームは政権寄りで、今回の抗議デモへの連帯を示してこなかったと国民からは見られているようだ。それもあって、冒頭の動画のようにチームの失点を喜ぶ声が上がったものと思われる。また動画には、歓声とともに「独裁者に死を」と唱える声も収められている。
この試合の前のセレモニーでイラン国歌が流れた際にも、サポーターらはブーイングを浴びせた。ただ、ピッチ上のイラン代表選手たちは口をつぐんだままだった。故国での抗議デモへの連帯を示すため、国歌斉唱を拒否するかどうかはチーム全員で決めると、代表選手の1人のアリレザ・ジャハンバフシュは試合に先立って語っていた。