最新記事

宇宙

「裏庭ほどの距離」地球に最も近いブラックホールが見つかる

2022年11月15日(火)19時10分
青葉やまと

4年間の研究が実を結ぶ

これまで博士たちチームは、4年間をかけて膨大なデータを分析し、同様の手法で休眠型ブラックホールの検出に挑んできた。ブラックホールと思しき天体を検出したことは数度あったが、いずれも詳細な調査により誤りだと判明している。

発見を論文にまとめたハーバード・スミソニアン天体物理学センターのカリーム・エル=バドリー博士は、「このような連星系を発見したとの報告は多数ありましたが、多くはその後の調査によって誤りだと判明しています」と説明している。

今回は長年の調査が身を結んだ初の例となるようだ。「私たちの銀河において太陽のような星が(代表的なブラックホールの形態である)恒星質量ブラックホールを広い軌道で周回しているのが疑いの余地なく検出されたのは、今回が初の事例となります」と博士は胸を張る。

既存の天体進化モデルに疑問を投げかける

今回の研究によって、天体の進化に関する新たな理論構築が促進されるかもしれない。科学ウェブサイトの「Phys.org」は、「ブラックホールは宇宙で最も極端な天体である」と述べたうえで、ブラックホールを含む連星系の進化を研究するうえで本研究が役立つとみる。

宇宙関係のニュースを扱う「Space.com」は、ブラックホールが進化の過程で他方の恒星を呑み込んでしまう可能性が大きかったと指摘している。記事はまた、「連星系の進化を説明する現在の天文学モデルでは、ガイアBH1系の特異な構成がどう成立したかを説明するのに無理を生じている」とし、新たな理論構築のヒントになるとの期待を示している。

NSF天文学研究所の推計によると私たちの地球がある天の川銀河には、恒星質量ブラックホールだけで約1億個が存在するという。だが、これまで発見されたブラックホールの多くは活動型だ。

今回の発見は地球に最も近いという点で新奇性があるだけでなく、休眠型ブラックホールの発見に至ったという意味でも貴重な研究となっているようだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中