最新記事

科学

ガの幼虫の唾液に「分解酵素」が見つかる──プラスチックごみの救世主となるか?

Saved by a Worm?

2022年10月19日(水)13時46分
パンドラ・デワン
虫

ハチノスツヅリガはハチの巣を食い荒らす害虫として知られていた SIMONA GADDIーHANDOUTーREUTERS

<リサイクルや処分が難しい、レジ袋などに使われるポリエチレン。それを分解する成分が、ある種のガの幼虫の唾液に発見された。英科学誌「ネイチャー」の最新論文より>

ガの幼虫がプラスチックごみ処理問題の救世主となるかもしれない。スペイン高等科学研究院のチームが10月4日、英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに発表した論文によると、ある種のガの幼虫の唾液にはプラスチックを分解する成分が含まれているという。

今回発見されたのは、プラスチック加工素材の生産量の約30%を占め、レジ袋などに使われるポリエチレンを分解する成分だ。プラスチックの中ではリサイクルや処分が難しい素材としても知られる。

これまでの先行研究では、ある種の細菌がペットボトルなどに使われるPETを、またキノコなど真菌類の一種が衣類に使われるポリウレタンを分解する酵素を分泌することが分かっている。ただ、ポリエチレンをそのまま分解する生物は見つかっていなかった。

「ポリエチレンで増殖(分解)する微生物は知られていたが、それにはまず素材を酸化させる必要があった」と、今回の論文の共著者の1人、クレメンテ・フェルナンデス・アリアスは言う。「これは自然環境では数年かかるし、ラボでは熱や放射線を照射する必要がある」

今回の発見では、ハチノスツヅリガの幼虫が分泌する酵素を使えば、この酸化を室温で、しかも1時間程度で進めることができるという。つまり分解プロセスで最も時間とエネルギーを消費する手順を省けるのだ。

同じく共著者の1人で養蜂が趣味のフレデリカ・ベルトッチーニがこの現象を発見したのは5年前。ハチの巣に湧いたこのガの幼虫の繭をポリエチレンの袋に入れ回収したところ、袋が破れているのに気付いたのがきっかけだった。

繭を作る生糸は幼虫が吐き出した唾液が固まったものだが、ベルトッチーニはこの唾液に分解酵素が含まれていることを突き止めた。そして今年、チームはこの分解作用のある化合物の分離に成功した。

「プラスチック文明」ともいえる現代社会に革命を起こすスーパー酵素となるかも。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中