ガの幼虫の唾液に「分解酵素」が見つかる──プラスチックごみの救世主となるか?
Saved by a Worm?
ハチノスツヅリガはハチの巣を食い荒らす害虫として知られていた SIMONA GADDIーHANDOUTーREUTERS
<リサイクルや処分が難しい、レジ袋などに使われるポリエチレン。それを分解する成分が、ある種のガの幼虫の唾液に発見された。英科学誌「ネイチャー」の最新論文より>
ガの幼虫がプラスチックごみ処理問題の救世主となるかもしれない。スペイン高等科学研究院のチームが10月4日、英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに発表した論文によると、ある種のガの幼虫の唾液にはプラスチックを分解する成分が含まれているという。
今回発見されたのは、プラスチック加工素材の生産量の約30%を占め、レジ袋などに使われるポリエチレンを分解する成分だ。プラスチックの中ではリサイクルや処分が難しい素材としても知られる。
これまでの先行研究では、ある種の細菌がペットボトルなどに使われるPETを、またキノコなど真菌類の一種が衣類に使われるポリウレタンを分解する酵素を分泌することが分かっている。ただ、ポリエチレンをそのまま分解する生物は見つかっていなかった。
「ポリエチレンで増殖(分解)する微生物は知られていたが、それにはまず素材を酸化させる必要があった」と、今回の論文の共著者の1人、クレメンテ・フェルナンデス・アリアスは言う。「これは自然環境では数年かかるし、ラボでは熱や放射線を照射する必要がある」
今回の発見では、ハチノスツヅリガの幼虫が分泌する酵素を使えば、この酸化を室温で、しかも1時間程度で進めることができるという。つまり分解プロセスで最も時間とエネルギーを消費する手順を省けるのだ。
同じく共著者の1人で養蜂が趣味のフレデリカ・ベルトッチーニがこの現象を発見したのは5年前。ハチの巣に湧いたこのガの幼虫の繭をポリエチレンの袋に入れ回収したところ、袋が破れているのに気付いたのがきっかけだった。
繭を作る生糸は幼虫が吐き出した唾液が固まったものだが、ベルトッチーニはこの唾液に分解酵素が含まれていることを突き止めた。そして今年、チームはこの分解作用のある化合物の分離に成功した。
「プラスチック文明」ともいえる現代社会に革命を起こすスーパー酵素となるかも。