最新記事

北朝鮮

響き渡った少女の悲鳴...北朝鮮「陸の孤島」で続く鬼畜行為

2022年10月12日(水)18時10分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載
両江道の国境地帯

両江道の中国との国境地帯にある見張り所(2014年) REUTERS/Stringer

<北朝鮮の僻地にある国境警備隊の拠点で、日用品などを運んでいた少女が性的暴行の被害。こうした事件は決して珍しいものではないという>

北朝鮮の北部にある両江道(リャンガンド)の甲山(カプサン)郡は、文字通りの山間僻地だ。鉄道は引かれておらず、中国との国境にも面していない。

李氏朝鮮の時代から僻地として知られ、流刑地となっていた。近代の日本の統治時代には、朝鮮の領域内でかなり遅い時期まで抗日パルチザン活動が行われた。日本軍の手が及びにくかったことも、この地域が周囲から隔絶されていることの証左と言えるかもしれない。

ちなみに、同地のパルチザンの指導者たちは朝鮮民主主義人民共和国の建国後に「甲山派」と呼ばれる勢力となったが、北朝鮮内部の権力闘争に敗れて粛清された。

そんな「陸の孤島」で、ひとりの少女が不良兵士の毒牙にかかった。

デイリーNKの現地情報筋によると、事件が起きたのは先月初めのことだった。高校を卒業して間もない少女は普段から、母親とともに、他の地域の市場で仕入れたタバコや日用品を国境警備隊の副業地に持っていき、トウモロコシなどと交換してもらっていた。

(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩"残酷ショー"の衝撃場面

副業地とは、軍が食糧を自給自足するために与えられた農耕地のことだ。母娘は、あれこれ努力して品物を安く仕入れ、配給不足に不満を抱える兵士らに便宜を図ることで、相場より安い対価でトウモロコシを得ていたようだ。

しかしその日、少女はたまたま1人で副業地を訪れた。そして、やはり1人で警備についていた兵士により兵舎に連れ込まれ、性的暴行を受けたのだ。少女は大声を出して抵抗したが、助けに来る者はいなかった。

相当量のコメを与えて示談を図った

帰宅した少女の異変に気付いた母親は、すぐさま国境警備旅団に乗り込み告発した。旅団司令部は兵士を処分する一方、母親に相当量のコメを与えて示談を図ったという。

ただ、それで事態が片付くかはわからない。情報筋によれば、軍の副業地周辺では、女性が兵士に襲われる事件が続発しているというのだ。

仮に、そうした情報が中央に上がれば、「軍民一致を傷つけた」として、見せしめのため極刑に処せられる可能性もある。実際、旅団保衛部では「軍民関係を毀損する行為は厳罰に処す」として、関連する事件の調査を強化しているという。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中