最新記事

教育

コロナ禍で「体験」の機会を奪われた子どもたち

2022年10月5日(水)10時40分
舞田敏彦(教育社会学者)

また、家庭環境で差があるのも見逃せない。2021年のデータによると、小学生の映画鑑賞実施率(映画館)は、家庭の年収300万円未満では35.6%だが、年収1500万以上だと64.7%にもなる。経済力の違いが投影されている。差が大きい項目は他にもある。<表1>で挙げた項目のうち、低所得層と富裕層の実施率の差が10ポイント以上ある項目を拾うと<表2>のようになる。

data221005-chart02.png

差が最も大きいのは国内観光旅行で、低所得層と富裕層では倍以上の開きがある。読書の実施率の差も大きいが、家庭の蔵書量の差にもよるだろう。

また美術、音楽、演芸等の芸術鑑賞の所得階層差も目立つ。これなどは、親の文化的嗜好の違いによると見られる。経済資本とは違う「文化資本」だが、こうした資本が豊富な家庭の子どもは学校で扱われる(抽象的な)知識への親和度が高く、学校で高いアチーブメントを収めやすい。その結果、高い地位が親から子へと再生産される。フランスの社会学者ピエール・ブルデューは、このような現象を文化的再生産と呼んだ。これは、行政による経済的支援だけで解消できるものではない。

コロナ禍で子どもの体験が減少し、かつ家庭環境による差は根強く残っている。公的な対策を考える上でのキー概念となるのは「アウトリーチ」だ。支援を要する人がSOSを発してくるのを待つのではなく、支援者の側から寄り添っていくことをいう。

最近はそうした取り組みも出ていて、宮崎市は、自宅から無償で本にアクセスできる「子ども電子図書館」のサービスを始めるという。感染症拡大のリスクを防ぎ、かつ家庭環境による体験格差を是正する対策の基本は、子どもが歩いて施設にやってくるのを待つのではなく、行政の側から利用へと仕向けていく「アウトリーチ」の姿勢だ。

<資料:総務省『社会生活基本調査』

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 4
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 8
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映…
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中