最新記事

中国外交

「上海協力機構」を西側諸国は冷笑するが、実は着々と「中国的・同盟」は拡大中

China’s Central Asia Focus

2022年9月28日(水)17時31分
ラファエロ・パンツッチ(英国王立統合軍事研究所の上級研究員)

中央アジアにおける中国の究極の目標は、新疆ウイグル自治区の安定化だった。新疆での暴力には国外の勢力が国境を越えて関係していた。どの程度宗教や民族的アイデンティティーを動機としているかは不明だったが、イスラム教過激派の関与は新疆でも中国でも目立った。

90年代後半を通じて中央アジアや中国で大規模な暴力が発生し、これに対処するため、中国は中央アジア各国政府の協力と支援を必要とした。その結果、強固かつロシアへの配慮を要する安全保障協力組織が出来上がった。

だが長期的にはこれらの問題の解決策は常に経済的なものになる、と中国は分析した。ソ連崩壊は、新疆には特に、閉ざされていた国境が突然開かれるというメリットをもたらし、当時の中国指導部はこの機に乗じるよう奨励した。

習もこれを踏襲し、13年9月に大規模な外交構想「一帯一路」を打ち出す初の演説の場にカザフスタンを選んだ。

経済協力だけでは不十分

ただし、ソフトな戦略だけでなくハードな外交戦略も引き続き必要だった。中国はウイグル人の暴力的な脅威に対し、中央アジア各国の協力を取り付けて強硬に管理してきたが、リスクは続いていた。

09年に新疆で起きた暴動は騒乱に発展。13年に天安門広場でウイグル人によるとみられる自爆テロが発生し、14年には習の新疆視察に合わせてウルムチ市内の駅で爆発事件が起きた。これらを受けて、ただでさえ厳しかった締め付けがさらに強くなり、中国は地域の安全保障上の脅威をより可視化しようとした。

こうした流れのなかで、アフガニスタン、タジキスタン、パキスタンに挟まれて東側で中国に接する山岳地帯「ワハン回廊」のタジキスタン領内に、中国人民武装警察部隊(武警)が常駐するようになった。これは中国が初めて国外に設けた軍事拠点と思われる。その後、17年にアフリカ東部のジブチに海軍基地を設置し、現在もさらに他の地域で軍事拠点を確保しようと機会をうかがっている。

タジキスタンに武警の拠点を置いた正確な時期は、定かではない。筆者は12年には現地で噂を耳にするようになったが、中国兵士の巡回にすぎないのか、何か別のものがあるのかは分からなかった。

それでも10年代半ばに噂が広まり始めると、ロシアが動揺したことは確かだ。その怒りの矛先は、公には中国ではなくタジキスタンに向けられた。旧ソ連の7カ国で構成する集団安全保障条約機構(CSTO)の一員でありながら、他の加盟国に知らせずに外国の軍事拠点を受け入れたことに腹を立てたのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

任天堂、「スイッチ2」を6月5日に発売 本体価格4

ビジネス

米ADP民間雇用、3月15.5万人増に加速 不確実

ワールド

脅迫で判事を警察保護下に、ルペン氏有罪裁判 大統領

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中