最新記事

日韓関係

紆余曲折の末に行われた岸田首相と韓国・尹大統領の対話

2022年9月26日(月)17時30分
佐々木和義

NATO首脳会議の際も挨拶のみ

韓国政府のフライング発表は、はじめてではない。今年6月、スペインのマドリードで開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の際にも韓国政府とメディアは、日韓首脳会談に言及した。

6月28日、岸田首相と尹錫悦大統領はスペイン国王フェリペ6世が主催した歓迎晩餐会で初めて顔を合わせた。岸田首相が尹大統領の就任と地方選挙勝利を祝うなど3~4分ほど挨拶を交わした。その後、両首脳は2017年9月以来、4年ぶりとなる日米韓首脳会談と日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの4か国首脳会談やNATO同盟国・パートナー国首脳会議で顔を合わせたが、日韓首脳会談は行われなかった。

日韓首脳会談を断念した尹大統領は、オーストラリアのアルバジーニ首相や英国のジョンソン首相、カナダのトルドー首相、オランダのルッテ首相など8人の首脳やNATOのストルテンベルグ事務総長と会談を行った。

尹大統領は8月15日の光復節と同17日の就任100日目の演説で、日韓関係の改善を強調、大統領室は日韓首脳会談を早期に実現したい意向を示した。

また9月14日、赴任から2か月経った尹徳敏新駐日大使が天皇に信任状を捧呈し、翌15日には安倍晋三元首相の国葬に韓悳洙(ハン・ドクス)首相を団長とする弔問団が参列すると明らかにした。

韓国野党は卑屈外交と批判

尹錫悦大統領は、女王エリザベス2世の国葬が行われた英国ロンドンに立ち寄って、現地時間の19日、ニューヨークに到着したが、日韓首脳会談の目処は立っていなかった。

数十か国の首脳が一堂に介する場で、首脳のスケジュールが変わることは珍しくない。日本側から面談可能という連絡を受け取ったとき、その日時が他国首脳との会談と重なっていたら日韓首脳会談を諦めざるを得なくなる。

韓国側の会談要請に対して、日本側は指定時刻に岸田文雄首相がいる場所に来るなら可能だが、それ以外は無理だと回答。尹錫悦大統領は指定時刻に国連日本政府代表部ビルを訪れた。首脳会談の際に掲揚する国旗は用意されず、韓国の報道関係者に開催事実が伝えられたのも対話が始まってからだった。岸田首相はほとんど口を開かず、尹大統領が話し続けたという。

韓国政府が期待していた米韓首脳会談は行われなかった。大統領室はジョー・バイデン大統領のニューヨーク滞在期間が短縮されたと説明する。韓国が要望すれば、米国が応じる可能性はあったが、米韓首脳会談と岸田首相との面談可能時間が重なると日韓首脳会談を断念せざるを得なくなる。

韓国野党は岸田首相の都合に合わせた卑屈外交と批判するが、メディアは米韓首脳会談の機会を逸したことには一切触れず、日韓首脳の面談を前向きに見る論調が目立っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中