最新記事

大英帝国

植民地支配の「罪」をエリザベス女王は結局、最後まで一度も詫びることはなかった

Not Innocent at All

2022年9月20日(火)17時51分
ハワード・フレンチ(コロンビア大学ジャーナリズム大学院教授)

私はアフリカの問題に関して多くの文章を書いてきたから、この主張を補強するようなアフリカ大陸での事例ならいくらでも紹介できる。だがここでは、大英帝国は黒人以外の人種に対しても見境なく非道であった事実を示しておきたい。

中国を見よ。イギリスは貿易収支の帳尻を合わせ、中国に対する優位を守るため、戦争までした。これでも大英帝国は「良性」だったのか。

200年間、インドの住民の所得は増えず

大英帝国の歴史については重要な2冊の著書がある。一方は既に古典的な名著だが、もう一方はまだ新しい。

まずは歴史家マイク・デービスによる大著『ビクトリア朝後期のホロコースト』(2000年)だ。19世紀後半の大英帝国が世界的な干ばつの連鎖に付け込んで、いかに領土の拡大と遠方の異民族に対する政治的支配を進めたかを詳しく記している。

大英帝国が最大の標的としたのはインドだった。悲惨な飢饉が繰り返されていたのに、リットン伯爵やエルギン伯爵のような特権階級のインド総督は大量の食物を輸出して稼いでいた。さらにアフガニスタンや南アフリカなどでの戦費を補うため、植民地に対する課税を強化した。

一方で、貧しい植民地住民を助けようとはしなかった。植民地政府は貧民を、社会にも経済にも無用な存在と見なしていた。そして「死にかけた農民を怠けさせるだけ」の人道支援などは無用と決め付けていた。

デービスの著書は告発状として徹底的に詳細を極める。なかでも強烈な一文を、ここに引用しておこう。

「英国によるインド支配の歴史を要約する一個の事実がある。1757年から1947年までの期間に、インドでは住民1人当たりの所得が少しも増えていない事実だ」

もう1冊の名著はアフリカ学の専門家キャロライン・エルキンズによる新著『暴力の遺産 大英帝国史』だ。こちらは20世紀の出来事に焦点を当てており、エリザベス2世の時代に起きた多くの残虐行為にも触れている。例えばケニアでは、キクユ人を平定するため、彼らを肥沃な農地から追い立て、100万人以上を「帝国史上最大の収容所列島」に閉じ込めていた。

エルキンズの著書が教えてくれるのは、ケニアにおける強制移住が例外的な事例ではなく、長年にわたる植民地支配の経験から生まれた策だという事実。植民地に赴任する行政官はだいたい似たような顔触れで、インドやジャマイカ、南アフリカ、パレスチナ、マレー半島、キプロス、アラビア半島のアデンなどを渡り歩いていた。そして暴力と拷問、残酷な処罰による抑圧のノウハウを蓄積していた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米11月ISM非製造業総合指数52.1に低下、価格

ワールド

米ユナイテッドヘルスケアのCEO、マンハッタンで銃

ビジネス

米11月ADP民間雇用、14.6万人増 予想わずか

ワールド

仏大統領、内閣不信任可決なら速やかに新首相を任命へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    韓国ユン大統領、突然の戒厳令発表 国会が解除要求可決、6時間余で事態収束へ
  • 4
    混乱続く兵庫県知事選、結局SNSが「真実」を映したの…
  • 5
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 6
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 7
    肌を若く保つコツはありますか?...和田秀樹医師に聞…
  • 8
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない…
  • 9
    JO1が表紙を飾る『ニューズウィーク日本版12月10日号…
  • 10
    ついに刑事告発された、斎藤知事のPR会社は「クロ」…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 4
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 5
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 6
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 10
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中