米メディアは中間選挙へ向け「広告の嵐」 渦巻く批判と新たな効果
一方で、ジョーンズさんによると、政治広告は総じて相手方を非難する「ネガティブキャンペーン」が多い。共和党側はインフレを引き合いに民主党の対立候補を攻撃し、バイデン大統領の仕事のまずさをやり玉に挙げる。
逆に民主党側は、米連邦最高裁が中絶の権利を合憲とした過去の判決を覆す見解を示したことを受けて、共和党候補が連邦レベルの中絶禁止を提唱するのは問題だと追及するという構図だ。
もっとも、アドインパクトの分析では民主党は共和党よりも、アリゾナ州など重点選挙区で候補者本人の長所を売り込む「ポジティブキャンペーン」も展開している。こうした候補者の大半は現職なので党内の予備選を勝ち抜く必要がなく、何カ月も前から自身のイメージ向上につながる広告を放映してきた。
複数の世論調査からは、このポジティブキャンペーンが効果を発揮している様子がうかがえる。アリゾナ、ジョージア、ネバダなど各州の上院議員選では、民主党候補の支持率が共和党候補より高い。
アドインパクトによると、アリゾナ州ではケリー氏のポジティブキャンペーンにこれまで費やされた金額は1200万ドルで、ネガティブキャンペーン向けの600万ドルの2倍に上る。
政治コンサルティング企業、インパクト・ポリティクスのブライアン・フランクリン社長は「ポジティブキャンペーンをより早期に開始したことで、民主党候補は人々に『この人なら問題を解決してくれる』と納得させ、そう思わせる根拠を築き上げる時間的余裕が相対的に大きくなっている」と指摘した。
証明されている効果
また、民主党のベテラン選挙参謀、カレン・フィニー氏は、一般民衆は政治広告に不満をぶつけるが、実際に効果があることが長年にわたって証明されてきたと強調する。
フィニー氏は「役に立たないなら、使われないはずだという格言もある。政治広告は有権者の主な情報源となりがちで、特に繰り返し流せば情報として記憶にとどまる。さらに現在はありとあらゆる偽情報が駆使されているため、候補者が非難攻撃に耐え抜いて届けたい主要なメッセージを確立する上で、ポジティブキャンペーンが大事になっている」と説明した。
最近の選挙は、資金調達や支出について情報開示が必要で、献金額の制限もある従来の政治行動委員会(PAC)の影が薄れ、候補者と直接関係を持たない「独立系」との建前でそうした規制を受けないPACが存在感を増しているのも特徴の1つ。
実際、今年のアリゾナ州の上院議員選では、政治活動費支出額トップ10の団体に、共和党と民主党の正式なPACは2つしか入っていない。
アリゾナ州では、この独立系PACの1つで共和党のマスターズ候補当選に活動目的を絞った「セービング・アリゾナ」の場合、マスターズ氏のベンチャーキャピタル業界時代の上司だった富豪のピーター・ティール氏がほぼ1人で資金を提供している。
超党派の非営利団体で米国の政治資金動向を追っているオープンシークレッツの分析に基づくと、ティール氏は昨年4月以降、セービング・アリゾナに1500万ドル余りを献金。セービング・アリゾナはこれまでメディアに1000万ドル強を投じ、共和党予備選におけるマスターズ氏の対立候補や、民主党候補のケリー氏へのネガティブキャンペーンを展開してきたという。
こうした中でジョーンズさんは、金持ちの献金者や政治団体は広告に使う金額を減らして、市の行政サービス改善やホームレスの住居確保といったもっと重要な問題に回すべきだと考えている。「政治広告など本当にどうでも良い。大量に流れても気分が悪くなるだけだ」と切り捨てた。
(Tim Reid記者)