最新記事

中印関係

「中国寄り」に傾きかけていたインドを、再び怒らせた「正体不明の中国船」騒動

India-China Friction

2022年9月7日(水)17時01分
ラジェスワリ・ラジャゴパラン(オブザーバー・リサーチ財団安全保障・戦略・技術センター所長)
中国船「遠望5号」

スリランカのハンバントタ港に入港した中国の遠望5号(8月16日) THILINA KALUTHOTAGEーNURPHOTO/GETTY IMAGES

<調査船「遠望5号」のスリランカ寄港が招いた波紋。台湾問題について中国への理解も示していたインドを遠ざける結果に>

インド政府関係者は、中国との国境問題にいら立ちを募らせているようだ。このところ、中国に対する不満をあからさまに表明している。

最も新しい対立のきっかけは8月16日、スリランカ南部のハンバントタ港に中国の調査船「遠望5号」が入港したことだ。当初は11日に入港する予定だったが、スリランカ当局が「インドが提起した安全保障上の懸念」を理由として許可を出さなかった。

インドでの報道によると、中国側は「スリランカの排他的経済水域(EEZ)内で船舶自動識別装置を作動させておくことと、スリランカ海域で科学調査を行わないこと」を条件として13日に入港許可を得た。

この船の性格が曖昧なことが、対立に拍車を掛けている。中国側は科学研究のための調査船と主張するが、米国防総省はこの船が人民解放軍の指揮下にあり、衛星やミサイル発射を追跡する能力があるとみている。インド側は、国内の宇宙センターやミサイル実験場など機密施設が遠望5号の追跡可能範囲内にあるのではないかと疑っている。

中国の戚振宏(チー・チェンホン)駐スリランカ大使はスリランカ・ガーディアン紙への寄稿で、スリランカが当初、中国の入港要請を拒否したことに関連してインドを非難した。「『安全保障上の懸念』を根拠としながら、何の証拠もない外部からの妨害は、スリランカの主権と独立への徹底的な干渉と言っていい」と、戚は書いた。

寝た子を起こすツイート

さらに戚はナンシー・ペロシ米下院議長の8月初めの台湾訪問に触れて、「中国の主権と領土保全を著しく侵害し、台湾海峡の平和と安定を著しく損ない、『台湾独立』を掲げる分離主義勢力に誤ったシグナルを送っている」と、アメリカを非難した。

この2つの問題を結び付けたことが、インドを怒らせたようだ。在スリランカのインド大使館は一連のツイートで「中国大使が外交上の基本的な礼儀を欠いているのは、大使自身の問題かもしれないし、国の姿勢を反映したものかもしれない」と述べた。

さらに大使館は、スリランカにおける中国主導の大規模インフラ建設が借金まみれであることや透明性が欠如していることを示唆し、それがスリランカの最近の混乱の一因になっていると指摘した。

この時のインド大使館の台湾問題に関するツイートは、ペロシが台湾を訪問した8月に示していた姿勢とは全く違う。インド外務省報道官は8月12日と25日に、インドが「一つの中国」政策を堅持していると確認した。その背景には、駐インド中国大使からの要請があったとみられる。

インド政府関係者が神経をとがらせているのは、中印国境問題の解決を目指す両国の協議が行き詰まっているからだ。インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相は8月、対立が続く現状を「危険な状態」と表現し、このような状況で中印関係の正常化はあり得ないと語った。そのとおりかもしれない。

©2022 The Diplomat

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 10
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中