最新記事

イギリス

トラス英次期首相、内憂外患で山積する課題に直面

2022年9月6日(火)16時48分
イギリスの次期首相エリザベス・トラス

英与党保守党は9月5日、ジョンソン首相の後任となる新党首にエリザベス・トラス外相を選出した。トラス氏が率いる新政権は物価高騰に伴う国民の生活費増大や労働紛争といった内政面の大きな課題を突き付けられている。同日、ロンドンで代表撮影(2022年 ロイター)

英与党保守党は5日、ジョンソン首相の後任となる新党首にエリザベス・トラス外相を選出した。トラス氏が率いる新政権は物価高騰に伴う国民の生活費増大や労働紛争といった内政面の大きな課題を突き付けられるうえに、英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)後の諸問題やウクライナの戦争など外交上の懸案を抱えた船出になる。

主な課題は次の通り。

生活費増大

目下の英国で最大の課題は、40年ぶりの物価高とエネルギー価格高騰、長引く恐れがある景気後退(リセッション)に苦しむ国民にどう支援の手を差し伸べるかだろう。

昨年は各家庭で平均1277ポンドだったエネルギー支出は今年10月以降、一気に3549ポンドに跳ね上がり、来年はもっと高まる見通しだ。

トラス氏は先月、生活費が危機的に膨らんでいる国民を支援する手段としては、各種給付金よりも減税が好ましいとの見解を示した。ただ現時点では、より幅広い家計支援策を打ち出すとみられている。

またトラス氏は首相就任後すぐに、減税とともに緊急的なエネルギー危機対策予算を計上すると約束。これらの措置には、党首選を争ったリシ・スナク氏が財務相時代に導入した国民保険料引き上げの撤回も含まれるだろう。

もっともこれで助かるのは主に所得の高い層になりそうだ。

ストライキ

新政権は発足後ただちに、強硬姿勢の労組指導者への対応を迫られる。英国では鉄道労働者から法曹家、医療従事者、大学職員までさまざまな働き手がストライキを実行中か計画している状況にある。物価高を受け、賃上げ要求に力が入っているからだ。

トラス氏は、労組によるストを抑えるために「厳格かつ断固とした」行動を取ると明言している。

ブレグジット

トラス氏は、ブレグジットの実務的な処理に取り組みつつ、前任のジョンソン氏が合意したEUとの離脱協定を修正するという約束を実行する必要がある。トラス氏は外相として、北アイルランド議定書の変更に向けた法案を推進してきた。これはジョンソン政権がEUと取り交わした離脱協定の一部、つまり英領北アイルランドとEU加盟国との開かれた国境を維持する目的で、北アイルランドを実質的にEUの関税圏にとどめるという内容を破棄する動きだ。

英国は長らく、この北アイルランド問題を巡るEUとの交渉で成果を得られない点に不満を持ち、議定書変更法案は英国の立場を守る予防的対応とみなしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

米加首脳が電話会談、トランプ氏「生産的」 カーニー

ワールド

鉱物協定巡る米の要求に変化、判断は時期尚早=ゼレン

ワールド

国際援助金減少で食糧難5800万人 国連世界食糧計
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 7
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 8
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 9
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中