最新記事

個人情報

サウジが砂漠にスマート都市建設 個人データ収集に対価、「監視化」に懸念も

2022年8月29日(月)11時00分

サウジは個人データ保護法を導入しており、ブラッドリー氏は、NEOM幹部らがプライバシーを巡る懸念に手を打っていると話す。

サウジの港町ジッダに住むエンジニアのファハド・モハメドさん(28)は、ザ・ラインに住むならデータ提供に同意すると言う。「私のデータは、既にソーシャルメディアのプラットフォームや配車アプリなどに利用されている。料金が支払われるのだから、(NEOMの)システムの方が良い」と語る。

監視への懸念

デジタル化の拡大に伴い、監視とプライバシーに関する懸念も強まっている。

NEOMの同意管理プラットフォームの利用者は、共有する個人データの種類やデータにアクセスできる主体を選び、データの使用方法を監視し、いつでもプラットフォームから抜けることができると、ブラッドリー氏は言う。

またデータが同意なしに使われたり、疑わしい活動があったりすると、システムがユーザーに警報を発するという。

しかしドバイに住むマーケティング専門家のファイサル・アルアリさん(33)は納得しない。「自分の望む範囲だけで、自分が選んだ第3者やサービスの間だけでデータが使われると、どうして信じられるだろう。他の理由で使われないという保証があるだろうか。100%信頼できるわけではない」と切り捨てた。

人とのふれあい

ザ・ラインを巡る懸念は、監視の問題だけではない。世界のスマートシティーの一部では、人とのふれあいを奪われて孤立を感じるという不満も出ている。

例えば韓国のスマートシティー、松島国際都市は、最先端の機能が整っているにもかかわらず人口が少ないままだ。スマホの操作で家の照明をコントロールできたり、捨てたゴミが管を通じて直ちに地下の仕分け設備に送られるといった便利さの代償として、人とのつながりがないからだとアインシャムス大学(カイロ)のサミア・ケドル社会学教授は説明する。

「人とのつながりは重要な社会インフラだ。複雑なデータインフラは通常、都市生活で何より重要な社会的、文化的ニーズに応えられない」とケドル氏は語った。

サウジにも、これに同意する人がいるようだ。ファハド・アルゴファイリさんはツイッターで「NEOMに費やしている数十億ドルを、国の他の地域に実在する都市の向上に使った方が良くないか?」と疑問を投げかけた。

(Menna A. Farouk記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアとの戦争、2カ月以内に重大局面 ウクライナ司

ビジネス

中国CPI、3月は0.3%上昇 3カ月連続プラスで

ワールド

イスラエル、米兵器使用で国際法違反の疑い 米政権が

ワールド

北朝鮮の金総書記、ロケット砲試射視察 今年から配備
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加支援で供与の可能性

  • 4

    過去30年、乗客の荷物を1つも紛失したことがない奇跡…

  • 5

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカ…

  • 6

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    礼拝中の牧師を真正面から「銃撃」した男を逮捕...そ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中